~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

『市民精神医療1-4』療養から就労まで psychiatrie citoyenne

『市民精神医療』


リール市で実践されている行政の地域間協力と『市民による精神医療』の具体的な取り組みについて書いていきたいと思います。原文は英語ですので直接お読みになりたい方はこちらをクリックするとご覧になれます。
Community mental health service: an experience from the East Lille, France Roelandt JL, Daumerie N, Defromont L, Caria A, Bastow P, Kishore J - J Mental Health Hum Behav
(原文:地域精神医療/JPローラン他, 翻訳とレジュメ文責:中村佳世、中村誠)


ここに掲載するのは、小中学生にもわかるようにという趣旨で日本語に訳して簡略化したものです。このシリーズが終わったらパンフレットにしたいと思います。
詳細は原文でご確認ください。転載もご自由にどうぞ。


リール市では、よいと思われる方法を世界中から次々に取り入れて実践し、現在の市民精神医療の仕組みを整えてきました。市民精神医療、地域包括精神保健制度とはどのようなものでしょうか。


【市民精神医療について】


【基本的な考え方】
今日では私たちの3人にひとりが、過去6か月以内なにかしらの心に疾患がみられると言われます。必ずしも皆が精神科に掛かるわけではなく気づかないうちに治っていることも少なくないそうです。それは「市民精神医療」の根拠ともなっています。
30年間にわたりリール市では、心の健康を保つことは誰にとっても関わりのあることとして、様々な努力がなされてきました。
病について知ることと治療、予防やリハビリテーション、社会復帰は患者の権利であるとともに社会の義務です。


それではまず「5つの原則」から見ていきましょう。


1  人権・市民権を他人が奪うことはできません。精神疾患がある人も社会の中で健康な人と同じように市民として生きる権利があります。
2  心の病に必要なのは正しいケアです。罪を問い裁いたり、罰を与えたり、閉じ込めたりすることではありません。
3     社会や精神保健サービスは、他の人ではなく、利用者本人の必要に応えなければならないものです。
4  市民精神医療は大きな病院に人を隔離したりしません。モバイル医療チームと市民がサポートします。
5 心の病を持った人は危険である、治療できない。というまちがった考えかたを変えていきましょう。市民精神医療により意識を高め、ケアへのみちをつくりましょう。


これらの1~5の原則を具体的に医療サービスの機能に適用すると次のようになります。
A    基本となる考え方の変更:当事者(利用者)は精神科のパートナーであって所有物ではありません。
B    利用者、家族は、精神保健ケアの専門チーム以外にも、健康や社会に関わる人々とのつながりをもちます。
C    利用者の健康、社会、文化サービスのニーズにバランスよく応えるために、公的機関がコーディネートします。(保健所・市長・職員・不動産屋・芸術家・市民などなど)
D    利用者とその家族は、健康管理とプログラムづくりに参加します。



それでは中身を見ていきましょう。


リール市の市民精神医療のしくみ
1 町に散りばめられた治療プログラムの場
2 急性期の治療と入院に代わるもの
3 回復期をサポートする様々な市民参加のしくみ


仕組みのなかでも実現しやすそうな町の仕組みから。


1 町に散りばめられた治療プログラムの場
治療プログラムは、6地区全域で芸術、スポーツ、文化など、一週間に48のワークショップが用意されています。
その6割が一般市民のための施設21箇所で行われます。(各種協会、社交センター、スポーツ施設、メデイアライブラリー、グループホーム、老人ホームなど。)
治療プログラムには、絵、造形、スポーツ、ダンス、音楽、歌、ビデオ作成、メディアライブラリー、心身活動(生きてる体を感じる、アクアリラックス、感覚強化))などがあります。
すべてのワークショップにはプロの指導者がつき毎週4時間分の指導料が払われます。


地域文化振興局が、市民のための現代アートギャラリー内におかれ、町の行政と連携して財政を支えています。ここでは作品の展示会も行われます。
一般市民のための施設で行われるこれらのプログラムは、ユーザーを孤立から守り自然に社会参加へと導きます。これらの活動の際にはユーザーはギャラリーのレストランで食事をすることもできます。
医療チームはユーザーと家族と話し合い、治療プログラムが定期的に見直されます。
医療はモバイルチームが基本です。リハビリテーションチーム(心理士、看護師、ソーシャルワーカー)もモバイルチームで、精神科医と連携して治療プログラムをフォローアップします。必要なときには各拠点をおとずれ、面接や社会教育指導などを行います。(アパート、活動拠点、職業紹介の各サービス)
毎年500人を超えるユーザーがこのサポートを利用しています。



2  急性期の治療


1 フルタイム入院


急性期の入院治療はジェロームボッシュ診療所で行われ、集中的に治療を受けることができます。1日平均10人が利用しており、2006年の平均滞在日数は8日間でした。将来はリール総合病院に統合される予定です。
入院にはユーザーの意思によるもの、国または第三者の要請によるものがあります。


入院中は、医療、心理、看護、社会教育インタビューの他に、芸術活動および治療、および身体的サポート(精神活性、ジヤグジー、サウナ、リラクゼーション、食事療法、美学)などを利用することができます。
ユニットは見守りの上で完全に開かれていて、ユーザーは自分の病気や治療について知ることができます。また、週に2回、医療チームとユーザーは退院などについて話し合います。
入院時にユーザーは医療部門のチームと話し合って、一部の人は診療所の他にFRONTIER $センターで治療ワークショップを受けたり、コンコルドルーム(市庁舎内)で食事をとったり、デイケアに参加したりできます。




入院に代わるものとして....

1 ホストファミリー


ホストファミリーは2000年から始まった制度で、現在12人まで利用することができます。
ホストファミリーはユーザーを家に迎え入れ一緒に生活することが目的であり、治癒を目的とはしていません。ですから前もってそのための指導を受けます。ホストファミリーはリール市精神医療センターの精神医療チームのメンバーで、ユーザー一人当たり1036ユーロ/月受け取ります。


急性期のユーザーは、診察の時または退院の時に家族と相談の上で、数日から数週間、ホストファミリーを利用することができます。
看護師とモバイル医療チームが訪問してケアサービスを行います。(投薬、水治療法、ジャグジー、各種の治療ワークショップなど) 入院時とほぼ同じサービスが受けられるので安心です。ユーザーは町の活動センターにも通うことができます。


治療プログラムを効果的に実施するために、治療の管理については、セクター同士でよく話し合います。この制度は精神科セクターチームに不可欠な部分で、ユーザーにとっても見守られ支えられるとても大切な機会です。
入院に代わる家庭での滞在は、平均日数21日間。この制度は家族医療の分野を専門化したもので、一人ひとりに合った質の高いケアをすることができます。



2 入院に変わる集中療養アパート


短期間のニーズに応える、市内に設置された集中的な療養のためのサービスです。10人まで受け入れることができ、8日ごとに見直しがされます。この施設は、すべての事実上の介護者、家族、友人、サークルの人などが遊びに来ることができる設計になっています。
ユーザーが支援を必要とするときには24時間対応ができる精神科医と、そのフォローアップチームがあります。フォローアップとしては、看護師による面接、精神科相談、心理相談、リラクゼーション、各種活動などがあります。サービスを受けている人々のために、急性期の後も患者のケアと指導が途切れないようにしています。



一人一人が自分を大切に暮らすためにはなによりも安心して住まう場所が必要です。
ハウジングファーストもこの考えに基づき実施されています。
リール市では一般市民との接点が様々に工夫されています。


住宅


公営アパートとアパート委員会の自治
市民精神医療において、社会的なつながりを維持できる住まいはインクルージョンの大切な要素です。
地域医療協会(AMPS, 現在はAISSMC身心の健康のための地域間協力、と改称して予防とリカバリー、健康増進のための講座と住宅に力を入れています)は地域社会に溶け込んだ暮らしが大切と考え公営住宅を斡旋します。主として2人から3人の共同入居を、また学生との共同生活の場としてこれまでに150のアパートが用意されました。
現在95人が57のアパートで療養プログラムを続けながら暮らしています。プログラムには、担当の精神科医との定期的な面談、看護師による定期的な聞き取り、治療計画の作成と見直しなどが含まれています。これらの医療チームにより24時間体制のサポートが受けられます。他に介護チーム、社会教育チーム(生活支援と活動のサボートなどを行う)のサポートもあります。


これらのアパートは「アパート委員会」によって管理されています。
「アパート委員会」は、社会医療協会、公営住宅事務所の管理者、家主、介護者、ユーザー、その家族および受託者による自治的な集まりです。
委員会は、ユーザーに公営住宅の割り当てを行います。


社会医療協会が敷金を負担、患者は家賃と一般経費を負担し必要な場合には家賃保証チームの援助をうけることができます。



アンドレブルトン公営住宅
6つのシェルターアパートと、6人まで収容できる重度障害用の大型療養アパートがあります。Faches Thumesnilにあり、各利用者は自分のアパートの借主で、 管理は自治体によって行われています。


5つの社会的サーピスを受けることができます。
これらの公的なアパートには病院スタッフ(介護助手、健康教育助手、社会教育助手、および病院サービス)が常駐しており、利用者の自立的な暮らしを可能にしています。これは重度障害者の場合の隔離による集中治療に代わる画期的な方法です。
このような援助により利用者は人々との程よい関わりを保つことができます。
(注: 教育助手については内容を確認する予定です)
(確認: 社会教育助手は生活支援と活動のサボートなどを行います)


社会復帰のための住宅 -- 低額アパート、アンブロワズパレ
低額アパート、アンブロワズパレには2つのスタイルあります。
1 サムウルベケット療養アパート(第1棟4室)
長期にわたり入院した後の、社会復帰への最初のステップとしてのアパートです。
2つのスタジオがあり、うち1つには学生が住んでいます。3LDKのアパートに2人、4LDKには2人の利用者と学生がひとり住んでいます。
この制度は長期入院を避けるために用意されました。
リール市と土地所有者の合意により提供された低額住宅制度の一部を利用しています。
ファッシュツムシル町(リール市東地区の6つの町のひとつ)が所有しています。また、この町は病院でのデイケア活動やバスケットボードを設置した地域センターを運営しています。


2  ホームステイ型移行用アパート(第2棟5室)
入院に代わる療養ができるホームステイ型アパートです。リハビリ期間に対応して6ヶ月まで治療に協力するホストファミリーを迎えるアパート。学生も利用者と同居しています。症状が比較的安定している患者のための社会的な移行のための場所として5室が用意されています。
転出先シェルターとしては民間または公営アパート、老人ホーム、その他の居住施設があります。


移行用アパートには家政婦がいることが前提で夜間と週末にはリハビリ担当者もいます。 ここで、利用者は日常生活を責任をもってひとりで営んでいく方法を身につけます。
また看護スタッフが訪問し、治療状況の継続的に経過観察をしています。


経済的社会復帰


障害者協会とのパートナーシップ(職場生活適応センター)
Fâches-Thumesnilにある適応センター(CAVA)は、フランスの1901年アソシエーション法に基づき設立された障害者協会です。 経済活動を通じて社会的包括をめざします。その目的は、職業的に排除された人々(最低賃金の受給者、長期失業者)の雇用市場へのアクセスを促進することです。 CAE、補助金を利用した監督つきの労働契約の場が20か所あります。


医療とは次のようなパートナーシップでつながっています。
セクターの精神科医によって紹介されたユーザーのために、特別の設定が用意された訓練センターが15箇所にあります。目的は、職業上の能力(働き方のパターン、職業上の関係づくり、チームワークなど)を「再起動」することです。 CAVAセンターには直接紹介されることもあれば、Frontière$センターの治療ワークショップ(2006年に設立)の作業療法士による評価を受けてから紹介されることもあります。
これは、障害者に社会復帰のための職業訓練コースを提供するもので、個人のニーズに合わせたコースと、規定のコースがあります。次のような段階的なステップで構成されています。まずはトレーニングセンターで、個人の職業レベルを割り出し実務経験を通してそれを検証します。次にそこで見出された能力と必要性に応じて資格認定される高度な訓練を受けて保護された環境へ、あるいは大部分の人は通常の職業環境へと移ります。紹介はCAEや自治体、コミュニティまたはパートナーとなっている協会を通して行われます。


市内に統合された職業訓練所の確立
専門家委員会による3年間の研究の後、AMPSの枠組みの中でLezennesの自治体を中心とした実験的プロジェクトが作成されました。 このプロジェクトには利用者協会や家族協会の代表者、経済的インクルージョンの専門家による協会などが参加しています。
このプロジェクトは すべての障害のある労働者は「市内に統合」されていて、自治体、地域社会、およびパートナー協会の協力の元でワークセンターで職業上の活動をや行っています。 それは通常の環境で働くことはできない人に、ハンディキャップに対応した適応条件で場所を見つけることを可能にします。


仕事が治癒に
2006年に、この計画への新しいプロジェクトが追加されました:その目的は居住空間に家具を備えつけたり、委員会による提携アパートを改装して家具を備えつけたりするプロジェクトです。 それは自発的サービスとユーザーによるユーザーのための自助の原則に基づいています。支えるのはワークショップスーパーバイザー、作業療法士、芸術家たちです。このプロジェクトは現役で活動するグループの助けを借りて雇用に戻る始めの一歩です。


最後までお読みいただきありがとうございます。町の仕組みはここで一旦区切りになります。
次回は人のつながりや実際の援助の手際など。
そしてこれまでの歴史と将来の展望です。
といっても March 2014 の記事なので現在の様子も気になります。


原文をお読みになりたい方はこちらをどうぞ。
地域精神医療サービス、フランスリール市東地区の経験より
http://www.jmhhb.org/article.asp?issn=0971-8990;year=2014;volume=19;issue=1;spage=10;epage=18;aulast=Roelandt

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