~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

コミュニティ市民精神保健 Psychiatrie communautaire

【コミュニティ精神保健の展望】
世界保健機関CCOMSディレクターJean-Luc ROELANDT
21/01/2019@パリ、リール大DIUで行われたセミナーより


【精神医療はどう変わったのでしょうか?】
•ケアの概念が変わりました:精神医学からメンタルヘルスへ
•WHOにおける転換
•分類と治療の変更:懸念のある治療と、よい方向に向かうケア
•リクエストを待つことから出向いていくことへの転換
•エンパワーメントとリカバリーおよび市民権の概念によって、患者からサービスのユーザーになりました。(彼らの専門性の認識)、GEM自助グループ、MDSP障害者支援
•個別対象ケアから地域住民全体を対象とするケアへ(CLSM地域メンタルヘルス協議会)
•コミュニティに基づいて、サービスと組織そのものに本質的な影響を与える


【目指す改善点:利用者の生活状況、ケアへのアクセス、利用者と介護者の権利状況】
フランスの歴史:精神病院から地域へ
「精神医療サービスは、もはや精神病院中心ではなく、地域に移されました。精神科医は地域の人のこころの健康をまもるのためにも働くようになりました。」
ルシアンボナフェ、1960年


【コミュニティ精神医療は地域包括医療の一部です】
「コミュニティ保健におけるコミュニティには、地理的または社会的な集団コミュニティがあります。メンバーは健康問題について一緒に考え、必要性に応じて優先順位を決め、その優先事項に最も適した活動の確立と実施に、積極的に参加します。」 (Manciaux and Deschamps 1978)


【パラダイムの変化の歴史、アサイラム(保護施設)から街へ】
•WHOの健康政策に合わせた世界的な動き
•疾患を重視し診断、分類することから、人のケアとサービスを総合的に提供することへの転換
•治療の重視から日々の健康管理への転換


【長い進化の歴史】
隔離を基本とする精神医療からの世界的な解放改革運動は、
•19世紀末に始まる
•第二次世界大戦下に逆戻りが始まる。T4作戦(ナチス・ドイツで優生学思想に基づいて行われた安楽死政策)の衝撃
•『彼らと私たち』から『彼らとは私たちみんなのこと』へ。 


【コミュニティ精神医療の基礎】 
・コミュニティ精神医療は、隔離的な精神医療と闘うために1960年代にアメリカで生まれました。
・少数民族の権利と人種問題との闘いがアメリカ社会で盛り上がった時期に、人道主義的ビジョンによって支えられ、「精神障害者」のおかれた状況も問題提起されました。
・1965年、脱施設化の始まり:アメリカでは施設に代わるコミュニティ精神医療の仕組み創りが始まりました。
・ケアが届かない人たちがいることが、不平等であるとはっきり意識されました。
・生活条件や、社会的、健康的、政治的環境がメンタルヘルスに影響を与えます。
・利用者は何よりもまず市民であると意識されます。
『心の病』から『心の健康』メンタルヘルスへと考え方が置き換えられ、WHOによって採用される:メンタルヘルスなしに健康はない。
• 人とその人の環境とが相互に適応することで、メンタルヘルスをバランスよく保つことができます。
• 健康とは、身体的、精神的、社会的幸福が完成された状態であり、病気や弱さがないというだけではありません(アルマ・アタ宣言1978)。
• 地域社会に統合されたプライマリヘルスケア(『全ての人に健康を』)は、健康のための最良の方向性です(健康づくりのためのオタワ憲章1986)。


【かぎとなる考え方:利用者の専門性を認識すること】
利用者の経験の専門性と、彼らのエンパワメント能力を評価する。
• リカバリー(回復)という概念の起こり
• メンタルヘルスケア、研究、専門的研修への、利用者の参加。
• 地域社会のコミュニティ精神医療への関与と関心。
• メンタルヘルスは病理学のみに着目するものではありません。
• コミュニティ自体が医療的なリソースを開発します。


【利用者の市民権、リカバリー(回復)、エンパワーメント】
これは次のような概念と結びついています。
「国家の主導から市民社会の主導に。最も恵まれない社会集団とされる人たちさえも、自らの主導権を回復し、支配関係の逆転を可能にします(Arnstein、1969)」


【大切なのは完全な市民権】
• 前向きなリカバリーの原則となるのは、人々がコミュニティーの中に留まることだけでなく、何よりも彼らがコミュニティーの一員として「他のみんなのように」そこに暮らすことです。
• コミュニティーの一員であるという事は、市民として平等に相互関係を発展させることを意味します。
(*デビッドソンL1、ショーJ、ウェルボーンS、マオンB、シロタM、ギルボP、マクダーミッドM、ファジオJ、ギルバートC、ブリーツS、ペルティエJF。 (2010)。 「世界で自分の道を見つける方法がわからない」:メンタルヘルスの実践を変革するためのユーザー主導の研究の貢献。)


【WHOによるメンタルヘルスケアのためのピラミッド】
ピラミッド内全てにおいてセルフケアは基本となります。
ニーズの度合いは上から下へと高くなり、価格は逆に下から上へと高くなります。
水平方向の広がりはサービスとケアの必要性の重要度を表します。
土台にセルフケア (非医療的)を据え、その上に地域社会におけるインフォーマルなメンタルヘルスケア (非医療的)があります。
さらにプライマリケア(全ての人の健康サービス)内のメンタルヘルス精神保健があり、その上に総合病院での精神医療とコミュニティ精神保健サービスが並び、最後に長期入院と精神医療施設がきます。


【WHOグローバルメンタルヘルス行動計画2013-2020】
ゴール : 幸福を促進し、精神障害を予防し、ケアを利用しやすくし、リカバリー過程を改善し、人権を促進し、精神障害を持つ人々の死亡率、罹病率および障害を減らします。
【分野横断的な原則】
1.ユニバーサルケア 2.人権 3.エビデンスに基づく実践 4.生涯にわたるアプローチ 
5.多様なセクターによるアプローチ 6.精神疾患や障害を持つ人々の行動力


【WHO 2020計画 - 持続可能な発展目標】
フランスのコミュニティ組織の展望
1 対象としてパートナーを持つのではなく、パートナーとして共にいる。(CLSM地域精神保健協議会)
2 入院に代わり、地域社会でのケアに携わる医療チームの人員を現行6割から8割に増強
3 利用者宅への訪問看護チームをサポートし、総合的プライマリケアの中に組み込む
4 自立化:「私たち抜きに私たちのことを決めないで」サービスのガバナンスに利用者が参加する。GEM自助グループ、ピアサポーター


【20世紀モデルの象徴】
・『病院』と『精神科看護師』入院または通院、急性期用ベッド、家庭医とプライマリケア
「はい、治りました、退院です。幸運を祈ります!」


【21世紀モデルの象徴】
・自助と相互扶助
安全なベッド:
短期的救急センター 包括とリハビリ ケア付き住宅(EM)短期ホストファミリー 在宅入院
支える人たち :
自助努力と自助グループ、家庭医 とプライマリケア、地域精神保健モバイルチーム、
「どのようなサービスでしょう?」
同じ人の写真。左に施設でケアを行っていた時、右は地域ケアに移行した後の写真があり表情の違いからケアの質が読み取れる。


【ヘルスケアシステムの進化 コミュニティケアに向けて】
•医療費負担の軽い地域精神ケア。
•すべての分野での世界的な方向転換。
•病院中心主義の終焉、デジタルへの転換。
•病院の「内」か「外」かではなく、「ユーザーへのサービス」を考慮したケアと暮らしのサポートの過程が問題となります。
•精神医学は健康に関与する分野の一部分として、全ての医療分野における後方支援として機能します。


【世界中の成功例】
・エンパワメント : 利用者と介護者のエンパワメント(「私たち抜きに私たちのことを決めないで」民主的な健康管理、フランスのCLSM地域精神保健協議会)
・リカバリーと専門性 : リカバリーという考え方の発達、経験豊富な専門家としてのピアサポーターは英国、スコットランド、ニュージーランド、米国、カナダ、フランスなどで活躍。(訳注、日本でも盛ん) 当事者研究者、教師(イングランド等、(Bichât、2016))
•プライマリヘルスと精神医療との連携の強化(スペインのオビエド、アフリカ、アジア)
•技術ツールの進化(オンラインメンタルヘルス)
•地域社会におけるケアの完全包括システム(ケベック、ブラジル、英国)


【コミュニティ精神医療の輝かしい未来】
•医療セクターからネットワークへ
•病院から自宅へ
•患者から利用者、市民へ
•当事者自身による地域ケアシステムへの参加
•リカバリーに重点を置いた仕組み
•意思決定の透明性と診断と治療の共有、エンパワーメント、自己診断と自助リカバリー
•医療中心のケア提供から健康に重点をおいたケア提供へ
•訪問チームの増加により、精神科救急センターや総合病院での入院のみの治療はほとんどなくなりました。
•地域社会の中での予防に焦点を当てた保健と社会の組織化
•E-Healthオンライン医療技術の開発と、それを利用したコミュニティを基本とするオンラインメンタルヘルスの構成
•スティグマ(レッテル貼り)と差別の終わり
•プライマリーケアや包括ケアにおけるサービスを統合することで最高の地域保健の構造ができます。
•包摂的で民主的な社会の中で
•注意:医療費という経済的な影響と、好ましい生活の質を両立させるモデル


【コミュニティ精神医療の未来に横たわる障壁】
・未来の輝きを曇らせる要素:
•社会における、昨日までの狂気の位置づけおよび今日の精神疾患を分析しなければ、未来を予測することはできません。大規模な収容監禁や絶滅計画に戻る可能生は常にあります。
•精神疾患の一般化、精神的な事がらについての科学的な解明は未だに不十分で、信頼に価するほどのものがありません。
・公共政策は :
① 足並みをそろえて健康と幸福を促進できるか? ②差異と個々人の健康に公共の社会秩序以上の価値をおくことができるか? ③ 差異と個々人の健康に、均質化、スティグマ化、他者の拒絶よりも価値をおくことができるか?
・これらのすべての要因がコミユニティ精神医療の実現と深く関わってきます。

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