~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

カリフォルニア州の入院審査と人権擁護

入院審査について日本に合った仕組みを考える座談会をしています。
下記は座談会で話題にのぼったカリフォルニアの例です。次回の座談会の参考資料にもなりますので、ぜひ参考にされてください。ベルギー、フランスの例も併せてお読みいただければと思います。(資料は大阪の精神医療人権センターニュースより)


≪カリフォルニア州の入院審査と人権擁護≫
KSKS(人権センターニュース№101)より
【長期入院の歴史】
アメリカの精神科病院でも随分長い間、長期入院の悲惨な歴史がありました。20 世紀初期、長期入院が増加し、治療レベルが悪化しました。それを打ち切らないといけないという事で改革がありました。各地の精神障害者の権利擁護団体が訴訟を起こし、しっかりした治療を保障しなければいけないという判決がくだったことで徐々に改革が進みました。
そして 1967 年にできたのが「LPS 法(Lanterman‐Petris-Short-act)」 です。3 人の上院議員が後押しをしてつくりました。ランタマンの L とペトリスの P とショートの S、3 人の議員の名前が法律の名前になっています。この法律の主旨は「不適切で無期限な強制入院を廃止する」ことです。この法律によって、患者の人権保障するシステム(司法審査)ができました。
【強制入院】
強制入院になるのは「重症・自殺・他害」の危険性が高い時。ここでいう「重症」は、例えば、生命の危険につながるような精神状態です。自殺の危険性とは、「自殺したいわ」と言ったぐらいではなく、自殺の試みやしっかりとした実行プランもあるような場合、そして他害の危険性がある場合のことです。
このような危険性がある場合、72 時間の観察入院という強制的な入院があります。72 時間の後さらに入院の継続の必要があるかないかという事を決めます。
「重症・自殺・他害」の危険性が、それほど強くなくなっていたら退院になります。
【司法審査】
強制入院時における 72 時間入院の後、さらに14 日間入院をするかどうかの「司法審査」は、強制入院となった全ての患者に対して行われます。
これは裁判官が仰々しく審査をするというようなものではなく、病院の 1 室に法廷から来た「聴聞官」や専門家が来て、そこで患者側の意見と治療者側の意見を検討します。自分でちゃんと意見を言える場合は患者が、患者が希望する場合には、患者の弁護をする弁護士またはアドボケイト(患者の権利擁護者・支持者)が患者に代わって患者の意見を述べます。患者側と治療者側の意見を十分に聴聞して、聴聞官が「入院」か「退院」の決定を下します。
【聴聞官】
ある程度は精神科医療に関する知識を持っている人が選ばれます。よく治療者側が入院を勧めて、患者が退院を求めます。そしてアドボケイトや弁護士は「患者自身がしっかりこういう風に言っているんだから」と退院を求めます。そうなると、聴聞官の方は患者側の意見を取り入れて「とにかく本人がそう言ってのだからやってみようじゃないか」と退院を決定します。
退院後、また 1 週間ぐらいで再入院という事もあります。そういう事が 2、3 回続くとその聴聞官は、今度はもうちょっと治療者側の意見も聞いて、もう少し入院を必要とするのではないか、という決定を出します。しかし、聴聞官は、はじめは、本当に患者側の希望をできるだけ取り入れるように決定するというのが私どもの経験です。


【NPO サンフランシスコ・メンタルヘルス・クライアンツ・ライツ・アドボケイツ】
「サンフランシスコ・精神保健・患者・人権・擁護」という意味の団体です。施設や病院での人権擁護サービスの委託を受けています。当事者、サンフランシスコの精神保健部、専門職、市民の有志がかかわっていて、色々な意見を取り入れながら、精神障害者の権利擁護活動をしています。
センターの年間運営予算が 3800 万円。職員が 4~5 人。職員は精神障害者の人権擁護に関する教育と訓練、経験のある人で、必ずしも専門職課程を学んでいなくてもよいです。そして職員の中の1 人は当事者です。自分自身が精神障害者として色々な経験を持っているという事が、この NPO の活動にとって非常に大切であると考えられているからです。
この団体が作成した精神障害者の権利が書かれているポスターは、法律で各病院や施設に貼ることが義務づけられています。
サンフランシスコでの経験から患者の人権擁護システムは必須です。専門職がいくらよかれと思っていても、やはり自分自身の限られた視点からみているので、必ずしも正しい事は保障されない。やはり患者側や第三者の意見を関係者が色々討論して、そして決める事が大切です。そして何か違反の疑いがあった時には、しっかりと調査して直さなければいけない。チェックシステムがなければ、間違ったことも続行してしまう危険があるのです。
明確な障害者の人権擁護の法律、ガイドラインが絶対に必要です。人情に打たれて、社会的なニーズに打たれて、もうちょっと基準を緩めたら良いのではないかなどと誘惑される事もあります。
しかし、はっきりとしたガイドラインがあれば、歯止めになるのです。患者側と治療者側とで意見の違いは少なくない。その事をわきまえる必要があります。意見の違いを第三者に検討してもらいながら、話し合いながら直せる所は直していかなければいけないのです。
権利擁護グループと専門家グループとのコミュニケーションによる相互理解を深める必要が大切です。権利擁護グループから意見を言われ、話し合って、考えを変えていく専門家も結構多いです。病院側がそういう団体とのコミュニケーションを拒否することが法律違反で、そのような場合には、市または州から大きな処分がなされるというような仕組みの中であれば、病院側もある程度の妥協や、色々話し合いを持ちながら改善していくことは可能です。精神保健福祉の現場では、話し合いでもって現状を少しずつ改善していける可能性があることを実感しています。


◆質疑応答より
Q、郊外にある「長期病院」の長期入院とは?
A、「1 年を目安とする」と言っていますが、中には 5 年 6 年と在院している人もいます。ただ、20 年 30 年というのは、ほとんどいないと思います。ある程度治療が安定した場合には、入院を必要とせず、グループホーム的な所に移ることになっています。
Q、入院形態についてA、アメリカにも自由入院と強制入院があります。
A. アメリカの強制入院は本人に資産がある場合は本人が支払う。家族ではなく、当事者本人です。そして当事者が保険を持っている場合はその保険会社に請求が行く。それらがない場合には全部行政が負担します。
Q、医療費の負担について
A、重症の精神障害者は、生活保護の対象になります。だから入院期間がコスト的な面で短くなることはありません。医療的な基準によって決まります。
一番困るのは、一時的に仕事を休んで治療をする場合には、自分か企業が購入している保険で支払われます。その場合は、かかる医療費を減らすように、できるだけ入院期間を短くするということはあります。
通院に関しても、サンフランシスコでは、治療の必要性はあるけれど、費用負担が生じることによって治療を拒否する可能性のある人には費用負担はないようにしています。
Q、強制入院について
A、強制入院をするという事は非常に辛い経験なので、入院時にはできるだけ本人の同意を得て入院をしてもらいます。入院が必要かもしれない場合でもできるだけ他の施設に入ってもらえるような事を心がけます。例えば治療付きの住居を使うとか、出張の救急サービスもあります。本当に精神的に不安になって、でも本人が入院をしたがっていない。そういう時に精神科医とソーシャルワーカー、または看護師とソーシャルワーカー、そういう 2 人のチームが当事者のいる所に行って、そこでスクリーニングをして、投薬や注射をしたりして、またその後も定期的にフォローアップをする、そういう風なことをしてできるだけ入院を避けるようにやっています。
Q、強制入院時、こういう場合は入院すれば効果があるということが科学的に認められていることが必要ではないか?
A、強制入院するかしないかというときには、できるだけ入院以外の他の手段を用いることは要求されます。しかし、科学的に認められたこと(エビデンス=ベースト)とは非常に難しい
定義なのであまりそこは言わないです。
Q、隔離拘束について
A、隔離拘束を最小限にするというのは凄く厳しく守られています。実施した場合には、本当にしょっちゅう患者をみてカルテに書かなければいけないし、件数も行政に報告しなければいけません。隔離拘束の毎月の件数は精神保健福祉局のホームページで公開されます。件数が多かった場合には、市や州から調査が来るし、どういう理由で件数が多いのかというような審査もされます。
ここ最近、精神科病棟を禁煙にすべきだという流れがあります。一番反対したのは職員組合でした。禁煙によって患者の精神状態が悪化して隔離拘束が増えてはならないという理由です。実際に禁煙を実施するとそういうケースはほとんどなかったというのですが、隔離拘束に対する考えは職員の方でも非常に慎重で、できるだけ避けるようにしているのが実情です。 
Q、強制治療について
A、患者には、強制治療としての投薬に対する拒否権があります。患者と病院との訴訟の結果です。それでも医師が絶対に投薬が必要だという場合には、聴聞官による審査が必要です。患者の意見と治療者側の意見を十分に聴聞して、薬を使うか否かを決定する。後見人がいる場合には後見人が治療や投薬を決定する事ができます。
本人が投薬を絶対に拒否する場合には、入院していても治療ができないのなら退院してもらって良いのではないか、それとも入院を継続するべきか、それは未だに治療者側の方と、患者側の方との間に続く葛藤です。
Q、強制入院下で強制的ではない治療はありうるのか?
A、入院を強制された中で、ある程度の薬を飲んだ場合に状況がよくなり、そのことか治療を継続したり、退院後も継続して治療を受ける方も多いです。
Q、最近の状況について
A、非常に厳しい入院基準がある中で、入院していないが治療が必要かもしれない人、または退院後に治療を拒否する人をどうフォローするのか、全国で色々と討論されております。
Q、患者の意見で医師の判断が覆る事はあるか?
A、実数を出すのは難しいですが、結構あります。
「重症、自殺他害の恐れ」のリスクについて、患者と医師とで意見に違いがあるわけです。
Q、患者が「自傷等の恐れがない」、医師が「自傷等の恐れがある」と言って、調停員は患者の言うことを尊重して退院決定を出し、その後、またその患者が入院することはないのか?
A、あります。繰り返しそういう事があった場合には、調停員はこういう風な事が何回もあったから、患者側のいう事にちょっと注意して、治療者側の意見をもっと重要視しなければいけないという風に解釈します。
Q、1 年間の継続入院については後見人が任命されるという事ですが、この後見人とは?
A、後見人というのは 3 種類あります。資産のある人は弁護士を自分で雇って、それが後見人として認定される。家族が後見人として申し出てそれが認められる。資産もあまりなくて、家族もいない、あるいは本人が家族には後見人になってもらいたくないという場合もあるし、そういう場合には市の職員が後見人になります。
市には精神科関係の後見人という部署があります。そこから主にソーシャルワーカーで訓練を受けた人が後見人に任命され、継続入院の決定だとか、治療、薬の決定、退院後のどこに住むとかいうことの決定にかかわります。
Q、NPO サンフランシスコ・メンタルヘルス・クライアンツ・ライツ・アドボケイツのできた経緯
A、私も関係していて、当事者や有識者たちが一緒になって考え、立ち上げてきました。やはり当事者がグループを立ち上げていかなければいけないという事を何年間も色々と話し合い、結構根強い当事者の活動があり、それがこのNPO の前身です。専門家からこういうのが必要だと言っても、本当に根強いものができない。
だからやはり当事者の人たちがもっともっと自分自身の希望、ニーズをしっかりと前に持ちだしてそして活動するという事が非常に必要で、特にサンフランシスコはそういうネットワークが凄く強いんです。
Q、患者がこの NPO に相談する方法について
A、各病院や施設のよく見えるところに、もし処遇等に異論がある場合にはここに通告してくださいということを貼っておかなくてはなりません。また、この NPO はあちこちの病院や施設に訪問する際に、自分たちのサービスを知らせるチラシを持って行っています。
支援を希望する時には、電話でも手紙でも申し入れをすれば、その団体からは必ず定期的に施設を訪問しますので、それでもって患者さんに面接をしながらその実態を色々と調査をしていくという事になります。
Q、この NPO への相談内容について
A、福祉サービスのアクセスについての相談というのは、入院している精神障害者が生活保護を申請したいが、その手続きを病院の方では援助してくれない、病院にはソーシャルワーカーはいるけれど、結構忙しいのでそこまで手が回らない。そのような時にこの NPO に申し出ると、NPO が直接その支援をやってくれるわけではないが、そういう事を援助するサービスに繋ぎをつけることはあります。例えば退院後にホームヘルパー、食事サービス、クリーニングサービスとかを利用する申し込み手続きに繋がりをつけたりもします。
職員に不当な処遇をされたとか、他の患者に許されているのが、私には許されなかったとかいう差別待遇をされたこと、数は少ないですが職員から暴力を振るわれたという相談も受けます。


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