『どうすればよかったか?』証人尋問〜コロナ禍の七生病院
はじめに
1 医療安全管理の点から
コロナ禍以前の保健所と県による監査、監督が不十分でした。
2 人権の観点から
このような問題は裁判に頼らずとも、権限のある人権機関によって解決が可能であるべきです。が、現時点では民間の精神医療人権センターには、十分な権限がありません。
どうすればよかったか?
〜 七生病院事件証人尋問 〜
I 裁判
「今回の訴訟は女性の被害回復が一義的な目的だが、裁判を通して日本の精神医療が少しでもよくなるよう促す一助となりたい」
原告代理人(弁護士)
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10013616911000
2025.12.15、七生病院事件の証人尋問があり傍聴しました。
⑴ 事件の概要
「東京日野市の精神科病院「七生病院」にうつ病で任意入院した53歳の女性が、2021年3月、院内で新型コロナウイルスに感染した際、陽性患者ばかりを集めた和室に移され、施錠された状態で10日間にわたって監禁されたとして、病院の院長や医療法人の理事長などに対し合わせて550万円の賠償を求めている。」
⑵ 証人尋問
東京地裁立川支部405号法廷
裁判官3名、原告側弁護士4名、被告側2名。
12/15(月)10時〜17時
午前 ①原告側鑑定証人(元桜ヶ丘病院精神保健福祉士)
②被告側元主治医竹内医師 (非常勤)
午後 ③原告側鑑定証人(伊藤順一郎医師)
④原告本人(50代女性)
⑤被告七生病院杉山美穂院長
⑶ 尋問の争点
争点①
任意入院の際、退院の申し出は受け止められたのか?
原告1回目の入院は2015年、4回目は2018年にうつ状態で任意入院し、1週間程度で回復、退院したい旨申し出たが、医師は3カ月を目処に考えていたため、退院準備の申し出と受け取られた。その後父の死により病状が回復していないとの医師の判断で、結果的に4年半の長期入院となった。
争点② 本人抜きで退院先の選定をしたのでは?
退院後もGHへの入居を希望していたが、病院側は救護施設に入居申請をしており、(退院に至るまで4.5年原告のための空きはない状態)。その後病院はGHを4カ所紹介し、原告はそのひとつを見学、要望に合わず断念。代理人弁護士が条件に合うGHを紹介し入居、契約期限で転居、現在は単身アパートで自由を満喫している。
争点③ 賠償
〜感染者に適切な治療を受けさせず集団監禁〜
2021年の実地調査: 2021年3月、同院で新型コロナのクラスターが発生したため保健所が調査。陽性患者を隔離する際、和室に複数人を閉じ込め、外側から鍵をかけていたのは、精神保健福祉法で定められた「精神保健指定医の指示」や「正当な手続き」を欠いた「集団監禁」に近い不適切な隔離(身体拘束)にあたると指摘。東京都はこれを受け、同院に対して法令遵守を徹底するよう行政指導を行った。
この一件で原告が発信したSOSの手紙(メモ)が原告代理人に届き、退院支援に繋がり、翌年5月、精神科病院の実態を明らかにするべく、杉山美穂院長(2017.4〜)と主治医(非常勤)の提訴に踏み切りました。
院長の他にも責任のある人がいるのではないかとの憶測があります。
⑷ 主観的な観察 (年齢は主観)
裁判官は3人。左右に女性と男性(40代)と温厚な感じの裁判長(60代)。
被告側代理人(弁護士)は2人。てきぱきとした感じの女性(40代)と大柄な男性(60代)。
原告側代理人は4人。相原啓介弁護士の他に女性(40代)、男性(30代と40代)。
被告の病院長も女性(40代)
法廷を見回して最初の印象は、こうした事件の責任を問い、問われる当事者にも女性が見られるようになったこと、女性の担う場面が増えた事にある種の感慨がありました。
さて、原告側鑑定証人は元病院精神保健福祉士(男性50代)と地域でACTを実践する精神科医伊藤順一郎さん。七生病院のカルテと看護記録から、精神保健福祉士や医師ならば通常行うべき業務、という観点から、こんな状態ならば〇〇ができる、基本は本人の意思を尊重する事、また、「記載がないので回答ができない」など、コロナ禍で複数の記録の不備も伺えました。
2人のお話は病院と地域を繋げる具体的な実践からの回答で、とても参考になりました。
主治医は水曜のみの非常勤、当初から原告本人よりも、原告の入居していたGHの意向を優先し、責任は地方行政の担当者の方にあると主張するなど、原告の回復に責任を感じているようには見えない発言が繰り返されました。
杉山美穂病院長(女性、40代)尋問。コロナ禍が始まったのは就任4年目、当時、常勤5名のうちがん治療中の医師と子育て中の医師が自宅待機となり、240名の患者に対して、コロナ感染者を2名で担当。緊張からか、注意されても原告を名前で呼び名前を明かしたり、質問が理解できず何度も聞き返す場面がしばしばあり、院長の精神状態が気になるほどでした。
院長に対し、原告側弁護士は、鍵をかけることを指示したか、とその状態、ポータブルトイレが設置されていたのを認識しているか、ゾーニングはどのようにしたか、などを問い詰めました。それに対し、、、
相原弁護士は退院支援から担当してきたためか、時折主治医や院長の回答に対し怒りが抑えられない様子が伺えました。
それに対し、被告側弁護士は、コロナ禍という未曾有の状況から患者を守ろうとした病院、という構図を描こうとしているようでした。
原告の回答は常に冷静で堂々として、小さな声でしたがはっきりと答えていました。3名の裁判官による補足質問も要点を押さえたものに思いました。
⑸ コロナ禍と医療保護入院
高木俊介さんは自身のfbに、精神病院でクラスターが発生しやすい原因を挙げられました。
①巨大な閉鎖空間であること
②居住施設としては不適格な密集性
③医療施設でありながら医療もケアも人的・質的も不十分な体制
④長期入院者(不要不急の社会的入院)の高齢化
⑤認知症患者の入院先となっており、高齢化が進んでいる
⑥一般医療からの差別により専門治療が受けにくい
II どうすればよかったのか?
”単純ではっきり見え、指摘しやすく、対策 も打ちやすい当事者エラーに目を奪われて、その背後に潜在する大きくて指摘しにくく、対策も容易ではない組織エラーを見過ごしてしまいがちである” 元パイロット石橋明
航空安全の文化はどのようにして構築されたのでしょうか?
⑴ 七生病院の歴史
1957.4.5 設立。初代院長 林欽一
1961.1.1 第二代 高橋芳和
1963.11.1 医療法人社団清愛会
1968.7.1 作業センター
2008.4.1 第三代 板橋充
2009.4.4 作業療法棟
2009.5.8 精神科作業療法
2016.4.1 日野市セーフティネットコールセンター事業協力
2017.4.1 第四代 杉山美穂(〜昭和大学病院?)
2017.5.6 地域連携室
⑵ 番組評として括られてしまったもの
ETV特集『精神科病院✕新型コロナ』
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2021114776SA000/
事件について調べていると番組評として書かれたものがあり、番組の中身も詳しく描写されていました。
このように、劣悪な環境の精神科病院がTV番組などで紹介されると「家族も引き取らず社会の中で他に居場所が〇〇」、「社会のエアーポケットに入り込んでしまった〇〇」といったトーンの感想がみられます。問題意識もあるように見えますが、実は、こうした感想こそが無関心を表わしているようにも思えます。前者は暗に責任は家族にあるとし、後者は社会という抽象化により、問題を袋詰めにして自分から遠ざける事に成功しているようにも見えるのです。
いずれも問題意識の高さを示した後、番組を評価する評論で締めくくり袋の口を閉じています。
本当に必要なのは、状況を改善するための具体的な知恵、その知恵が一番豊富にあるのは現場を知る当事者ではないでしょうか。本当に必要なのは「エアポケットに入ってしまった」人のその知恵を聞く耳ではないでしょうか。
参照
水島宏明
https://yuki-enishi.com/psychiatry/psychiatry-75.pdf
茂木健一郎
steranet.jp/articles/-/718
⑶ 安全文化を模索する
〜 遺族の一視点から 〜
人の責任を追及しない文化を構築し、真相を究明し本当の原因を探ることで根づいていったのが航空機の安全文化といいます。
国賠訴訟、神出病院事件、滝山病院事件、火山裁判、七生病院事件、と精神医療の問題を考えているとどうしても人たたきの方に心が寄りがちです。
が、精神医療過誤遺族として、私はそうした議論に賛同して全面的に仲間意識を持つことが難しいと感じます。世間で言う「遺族は犯人に死刑を求めるもの」という定式化された図式には満足できないものがあります。
それよりも、根本的な解決策は?という質問の方が強く身体の中から沸いてきます。根本原因を分析し解決すること、解決策を見つけることは、精神医療から排除された私自身の「回復の手段」のひとつです。自身の「自力救済」、ある意味山上くんと同じ文脈かもしれません。
⑷ 安全への提案
前章でクラスター発生の原因をみました。そこで、入院を受け入れる病院の条件、特に強制性のある医療保護入院を認可する条件として、次の事を要求、あるいは提案したいと思います。
非現実的に見えるとすれば、それだけ患者の権利が疎かになっているという事でしょう。
①他科受診が保障される事
②全て個室とし本人が部屋の鍵を管理する。
③必要な人員配置があること。
④高齢者施設の利用条件との区分を明瞭にする。
⑤GH、単身居室を整備(補助金など)して長期入院、社会的入院者の転居を可能にする。
等を要件とする事を強く要望したいと思います。
2023年にはカルテレビューがスタート、10年前からは医療事故調査制度もできました。が、全てが報告されていると言えない状況です。
まずは、医療保護入院という強制制度の中で起きた傷病、死亡には、健康を損失した原因を国の責任により調査し、補償する医療事故基金の創設を強く訴えたいと思います。
《参照》
ETV特集 精神科病院×コロナ禍