~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

脱施設化ガイドライン 世界の障害者団体の協力による

Guidelines on deinstitutionalization, including in emergencies
Committee on the Rights of Persons with Disabilities
OHCHR | CRPD/C/5: Guidelines on deinstitutionalization, including in emergencies (2022)


緊急事態対応を含む脱施設化ガイドライン
障害者権利委員会 CRPD/C/5
2022年10月5日
訳: 尾上裕亮、岡本明、佐藤久夫
日本障害者協議会ホームページより https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fjdnet.gr.jp%2Freport%2F17_02%2Ffile%2F4%2FGL.docx&wdOrigin=BROWSELINK


I.目的と手続き
1.本ガイドラインは、障害のある人の自立した生活及び地域への包摂(障害者権利条約第19条)に関する障害者権利委員会の一般的意見第5号(2017年)と、障害のある人の自由と安全に対する権利に関するガイドライン(第14条)を補完するものであり、それと併せて読むべきものである。これらは、障害のある人が自立して生活し、地域社会に含まれる権利を実現するために、締約国を導き、支援するものである。また、脱施設化のプロセスおよび施設収容を防ぐ計画を策定する際の土台となるものである。


2.このガイドラインは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの以前およびその最中の、広くまん延した施設収容の状況を明らかにした、障害のある人の経験を参考にしている。その経験は、施設収容が及ぼす権利と障害のある人の生活の有害な影響と、障害のある人が経験した、施設内における化学的、機械的、身体的拘束を含む暴力、ネグレクト、虐待、不当な治療、拷問などを中心的に取り上げたものである。


3.このガイドラインは、委員会が主催した7つの地域協議などの参加型プロセスでの協議に基づくものである。この過程には、障害のある女性、障害のある子ども、施設収容から脱した障害のある人(survivors of institutionalization,以下「脱施設者」)、色素欠乏症の人、草の根団体、その他の市民団体など500人以上の障害のある人が参加した。


Ⅱ.締約国の、施設収容を終わらせる義務
4.国際法の下での義務にもかかわらず、世界中の障害のある人は施設の中で生命を脅かす状況で収容され続けている。


5.委員会は、脱施設化プロセスが条約に準拠していない、又は大幅に遅れていると認識している。


6.施設収容は、障害のある人に対する次のような差別的な慣行である。
· 条約第5条に反する。
· 第12条に違反する、障害のある人の法的能力の事実上の否定。
· 第14条に反する、機能障害に基づく抑留と自由の剥奪。締約国は、施設収容が障害のある人に対する暴力の一形態であることを認識しなければならない。
· 第15、第16、第17条に違反。施設収容は、障害のある人を、鎮静剤、気分安定剤、電気けいれん療法、転換療法などの向精神療法による強制的な医療介入にさらす。
· 第15条と第25条に違反。障害のある人を、同意やインフォームドコンセントなしに、薬物投与やその他の介入にさらす。


7.施設収容は、障害のある人が自立して生活し、地域に含まれる権利と相反するものである。


8.締約国は、あらゆる形態の施設収容を廃止し、施設への新規入所を終わらせ、施設への投資を控えるべきである。施設収容は、決して障害のある人の保護の一形態として、あるいは「選択」としてみなされてはならない。公衆衛生上の事態も含めた緊急事態において、条約第19条に基づく権利の行使を停止してはならない。


9.施設収容を永続させる正当な理由はない。締約国は、いまある施設の維持や閉鎖の遅延の正当化する理由として、地域支援やサービスの欠如、貧困、スティグマを挙げるべきではない。包摂的な計画、研究、パイロット・プロジェクト、または法改正の必要性を理由に、改革を遅らせたり、地域のインクルージョンを支援する緊急行動を制限してはならない。


10.個人的な危機を抱えている障害のある人は、決して施設収容の対象になってはならない。個人の危機は、治療を必要とする医学的問題として、又は国家の介入、強制投薬、強制治療を必要とする社会的問題として扱われるべきではない。


11.脱施設化プロセスは、民間および公営の両領域において、障害のある人のあらゆる形態の施設収容、隔離、分離を終わらせることを目指すべきである。


12.施設収容は、障害のある子どもの保護の一形態とみなすことは決してできない。障害のある子どもたちのあらゆる形態の施設収容は、家族以外の環境におかれることを意味し、分離の一形態であり、有害であり、条約に違反する。障害のある子どもは、すべての子どもと同様に、家族生活を送る権利を有し、地域のなかで家族とともに暮らし、成長する必要性を持っている。


13.締約国は、個人に対して施設から退所する機会を直ちに提供し、精神保健法の下か否かにかかわらず、条約第14条に適合していない立法規定によって認められた抑留を撤回し、障害に基づく非自発的な抑留を禁止するべきである。締約国は、施設への新規入所を直ちに止め、新規入所および新規施設や隔離室の建設に関する一時停止措置を採用し、既存の施設の改修や改装を控えるべきである。


Ⅲ. 脱施設化プロセスのキーとなる要素を理解し、実施すること
A.施設収容
14.施設には、次の明確な典型的要素が存在する。
· 介助者を他人と共有することが義務付けられ、誰に介助をしてもらうかについての意思表示権がない、または制限されている
· 地域での自立した生活から隔離され、分離されている
· 日々の決定をコントロールできない
· 誰と暮らすかという関心事についての本人の選択肢がない
· 個人の意思や希望に関係なく、日常生活が厳格である
· 一定の管理のもと、個人が属するグループ単位に、同じ場所でほぼ同じ活動を行う
· サービス提供が父権主義的アプローチである
· 生活環境を監督する
· 同じ環境に障害のある人が偏っている


15.障害のある人の施設収容とは、障害という理由のみ、または「介護」や「治療」といった他の理由と組み合わせて行われるあらゆる拘留を指す。障害のある人特有の拘留は、典型的には次のような集合環境などの施設で起こるが、これだけにとどまらない。
· 社会福祉施設
· 精神科施設
· 長期滞在型病院
· 老人ホーム
· 監視付き認知症病棟
· 特別寄宿学校
· 地域に根付いていないリハビリセンター
· 施設と地域との中間施設(half-way homes 訳注 社会復帰訓練所などを指すと思われる)
· グループホーム
· ファミリータイプの児童施設
· 保護生活施設
· 司法精神医療施設
· 移行用一時住宅(transit home)
· 色素欠乏症の人の収容施設
· ハンセン病コロニー
· その他の集合的施設
ケア、治療、予防拘禁などの目的で人の自由を奪う精神衛生環境は、施設収容の一形態である。


16.民間によって運営・管理されている施設も含め、すべての施設が脱施設化の改革に含まれるべきである。施設の要素が一つまたはいくつか無かったり、要素を改善あるいは取り除いたとしても、その環境を地域に密着したものとして特徴づける理由としてはならない。例えば、依然として、障害のある大人が代替意思決定や強制治療の対象になる施設、介助者を共有する施設、サービス提供者が所定の順序で支援し自律を否定する“地域にある”施設、同じサービス提供者が住宅と支援両方を一緒に行なう「ホーム」などは、地域に密着した環境とはいえない。


17.締約国は、条約第19条に従って、自立した生活および地域社会の包摂が、あらゆる種類の居住施設の外での生活環境を指していることを認識すべきである。施設の規模、目的、特徴、または措置や拘留の期間にかかわらず、施設は決して条約に適合していると見なすことはできない。


18.刑務所、難民キャンプでの分離された環境、移民シェルター、ホームレスのためのシェルター、祈りのキャンプなど、他の拘留環境において、障害のある人が過剰に存在する可能性がある。国は、他の拘禁環境に拘留されている障害のある人の権利を確保し、彼らが受けている障害を理由とする差別的慣行を根絶するべきである。


B.脱施設化プロセス
19.脱施設化は、相互に関連したプロセスから構成されており、障害のある人が、どのように、どこで、誰と暮らすかについての、自律性、選択、コントロールを回復することに焦点を当てたものでなければならない。


20.脱施設化のプロセスは、施設収容で被害を受けた人など、障害のある人によって進められるべきで、施設の運営側や施設の維持に携わる人々によって進められるべきではない。第19条に違反する誤りを避けなければならない。誤りとは例えば、施設の改修、ベッドの増設、大きな施設から小さな施設に移行すること、施設の維持、「最も制限の少ない代替案」といった基準を精神衛生法に立法化し、人権侵害を永続させることである。


C.選択する権利、個人の意思、希望を尊重する
21.自立した生活および地域社会への包摂は、完全な法的能力、住宅へのアクセス、そしてアクセシブルで障害のある人が自分の人生を再びコントロールできるような支援やサービスの選択肢が必要である。選択肢をもつということは、障害のある女性や高齢者を含む障害のある人が意思決定において尊重され、障害のある子どもの可能性が尊重されることを意味する。締約国は、施設を出る人に多様な選択肢を提供し、意思決定に支援が必要な障害のある人が支援にアクセスできることを保証すべきである。


D.地域に密着した支援
22.締約国は、質の高い個別支援および、地域のインクルーシブなメインストリームサービスの開発を遅滞なく優先させるべきである。


23.自立した生活および地域に含まれることの重要な要素は、すべての障害のある人が、自らの選択に基づき、日常生活を営み、社会に参加するために必要と思われる支援を受けることである。支援は、個別で、自分に合わせたもので、様々な選択肢を通じて提供されるべきである。支援には、公式な支援から地域に密着した非公式なネットワークまで幅広く含まれる。


24.障害のある人は、地域に密着した支援の提供の選択、管理、終了において、法的能力を行使できるようにするべきである。法的能力の行使における支援は、国の財源によるものと、または個人の非公式なネットワークを通じて提供することができる。


25.自立した生活を送るための支援サービスは、利用可能で、アクセシブルで、受入れやすく、手頃な価格で、適応可能であるべきである。


26.支援サービスには、パーソナル・アシスタント、ピアサポート、家族環境における子どもの介護者派遣、非常時支援、コミュニケーション支援、移動支援、支援機器の提供、住宅確保支援、家事援助、その他の地域に密着したサービスが含まれる。また、障害のある人が、教育、雇用、司法制度、医療などの領域でメインストリームサービスにアクセスし、利用できるようにするための支援も提供されるべきである。


27.パーソナル・アシスタンスサービスは、個人のニーズに基づいて個別に提供され、利用者によって管理される必要がある。障害のある人は、サービスをどの程度自分で管理するか、つまり自分が支援者の雇用者となるか、あるいは様々な提供者からサービスを受けるかを決めることができなければならない。すべての障害のある人は、法的能力を行使する際の支援度にかかわらず、パーソナル・アシスタンスを利用できる。彼らは、施設を出る際すぐにサービスに利用できるように、施設を出る前にパーソナル・アシスタンスの仕組みに繋がっておくべきである。


28.在宅サービスその他の支援サービスやパーソナル・アシスタンスなど、地域に密着した支援サービスの定義は、新たな分離型サービスが出現しないようなものにする必要がある。グループ住居(小規模グループホームを含む)、保護付きワークショップ(sheltered workshops)、「レスパイトケア」提供のための施設、移行用一時住宅(transit home)、デイケアセンター、または地域治療命令(community treatment orders 訳注 患者に対して、担当臨床医が病院ではなく地域社会で監視付きの治療を行うことを命じるもの)のような強制措置は、地域に密着したサービスとは言えない。


E.資金と資源の割り当て
29.施設に対する投資(改築を含む)は禁止されなければならない。投資は、入所者の即時退所と自立した生活のための必要かつ適切なすべての支援の提供に向けられるべきである。締約国は、障害のある人が施設での生活を「選択」していると示唆したり、施設の維持を正当化するために同様の議論を用いることを控えるべきである。


30.締約国は、施設の建設や改修に公的資金を使うことをやめ、国際協力からの資金も含め、インクルーシブな地域支援の仕組みおよびインクルーシブなメインストリームサービスの持続可能性を確保するために、公的資金を配分すべきである。


31.締約国は、施設を退所する障害のある人(障害児を含む)に対し、日常生活用品、現金、食料引換券、コミュニケーション機器、利用可能なサービスに関する情報からなる総合的な補償パッケージを、退所後直ちに提供するべきである。このようなパッケージは、施設を退所する障害のある人が立ち直り、必要なときに支援を求め、ホームレスや貧困に陥るリスクなく地域で適切な生活水準を持つための基本的な保障、支援、信頼を提供するものでなければならない。


F.アクセシブルな住宅
32.締約国は、施設を退所する人のために、公共住宅または賃貸補助金を通じて、地域における安全でアクセシブルな、かつ手頃な価格の住宅を確保するべきである。施設を退所する人を共同住宅様式や、指定された近隣地域に集めること、住宅を医療や支援のパッケージと一緒にすることは、条約第19条および第18条(1)と相容れないものである。施設を退所する人は、法的拘束力のある賃貸契約または所有権契約を結ぶ権利を享受すべきである。住宅は、施設を管理してきた精神保健制度やその他のサービス提供者の管理下に置かれるべきではなく、また、医療や特定の支援サービスを受け入れることを入居の条件としてはならない。


33.条約第19条に書かれている居住サービスは、施設の維持を正当化するために用いるべきではない。居住サービスという概念は、障害のある人が適切な住居を得る権利の行使において、平等と非差別を確保することを目的とした地域に密着した支援サービスである。居住サービスの例としては、社会住宅、シェアハウス(self-managed co-housing)、無料の住宅相談、および住宅差別に対抗するための支援などがある。住宅が適切であるとみなされるには、法的な保有権の保証、サービス、材料、設備とインフラ、手頃な価格、居住性、アクセス性、立地、文化的妥当性に関する最低限の基準を満たす必要がある。


G.脱施設化プロセスにおける障害のある人の関与
34.締約国は、条約第4条(3)および第33条に従い、脱施設化プロセスのすべての段階において、障害のある人およびその代表団体を密接に関与させ、施設を退所しようとしている人、脱施設者、およびその代表団体の意見を優先させる必要がある。サービス提供者、慈善団体、専門職団体および宗教団体、労働組合、ならびに施設を運営し続けることに財政的またはその他の利益を有する者が、脱施設化に関する意思決定プロセスに影響を与えることを防ぐべきである。


35.施設に暮らす障害のある人、脱施設者、および施設収容のリスクが高い人々には、脱施設化プロセスへの完全参加を促進するために、アクセシブルな支援と情報が提供されるべきである。


36.締約国は、条約第19条、施設収容と障害のある人の社会からの排除の有害性、および改革の必要性を国民が理解するよう、オープンでインクルーシブな計画プロセスを確立すべきである。これらのプロセスには、国民、障害のある人、家族、政策立案者、サービス提供者を対象とした情報の普及やその他の啓発活動が含まれていなければならない。


Ⅳ.障害のある人の尊厳と多様性に基づいた脱施設化
37.すべての障害のある人には地域で生活する権利がある。一部の人に対して、自立して生活できない、施設に留まるべき、と決めつけることは差別である。意思決定の権利を否定されている人は、たとえ支援を提供されても、自立した生活を送るように誘われたり、地域に含まれたりすることに対して、はじめは嫌に感じるかもしれない。多くの人にとって、施設は彼らが知っている唯一の生活環境であるかもしれない。締約国は、入所者の成長を制限してきたことに対して責任を負うべきであり、障害のある人を「脆弱性をもつ」あるいは「弱さをもつ」とみなすことによって、施設を出ることに対する新たな障壁を作り出してはならない。脱施設化のプロセスは、障害のある人の尊厳を回復し、多様性を認識することを目的とすべきである。機能障害に基づく自立生活の能力の評価は差別的であり、地域での自立生活のための個別要求や障壁の評価へと変えるべきである。


38.脱施設化プロセスにおける障害のある人の家族の関与は、成人の場合には、本人の明示的な同意がある場合にのみ認められるべきである。障害のある人のなかには、公的サービスを補完するものとして、あるいはそれに代わるものとして、家族から支援を受けることを希望する人もいる。本人が家族から支援を受けることを選択した場合、締約国は、家族が支援の役割を果たすために十分な財政的・社会的・その他の援助を受けられるようにすべきである。家族に対する国の支援は、障害のある人が受ける支援の種類およびその利用方法についての選択および管理する権利を十分に尊重した上でのみ提供されるべきである。家族に対する支援は、いかなる形であれ、障害のある人を短期または長期に施設に収容することを含んではならず、障害のある人が自立して生活し、地域に含まれる権利を自覚できるようにしなければならない。


A. 交差性
39.締約国は、施設に居住し退所する障害のある人の差別、隔離、分離、その他の形態の虐待に取組むために、交差的なアプローチを採用すべきである。障害のある人のアイデンティティは多面的であり、障害はひとつの特徴にすぎない。人種、性別、性自認および表現、性的指向、性的特徴、言語、宗教、民族、先住民または出自、移住または難民、年齢、機能障害グループ、政治的またはその他の意見、投獄経験、その他の地位を含む他の特性が交差して、その人のアイデンティティを形成している。交差性は、すべての障害のある人の生活体験において重要な役割を担っている。


40.障害を理由とする差別は、施設収容の理由が明確に障害によるものであるか否かに関わらず発生する可能性がある。多重差別、法律上・事実上の差別は、支援サービスの不足によって地域でも起こり、障害のある人を施設に追いやることがある。


41.締約国は、脱施設化プロセスのすべての側面で(特に以下の場面で)交差性が確実に考慮されるようにしなければならない。


· 施設閉鎖の構想、実施およびモニタリング
· インクルーシブな地域支援の仕組みと包摂的なメインストリームサービスの開発
· これらのプロセスを通じて、性別に配慮した、年齢に応じたアプローチによる障害のある人の参加締約国は、障害の場合と同じく、人種や民族的出身に基づく差別や施設収容を防ぐために、構造的な人種主義とも闘うべきである。


B.障害のある女性及び少女
42.締約国は、障害のある女性及び少女が、ジェンダーと障害を理由とする多重差別の対象であること、彼女らが同質な集団ではないことを認識するべきである。障害のある女性は、他の女性と比較して、暴力、搾取、虐待のリスクが高い。また、施設収容中に、強制避妊、強制中絶、不妊手術などのジェンダーに基づく暴力と有害な慣行のリスクにさらされている。彼女らは、障害を持つ男性よりも、また他の(障害の無い)女性よりも法的能力を行使する権利を頻繁に否定され、司法へのアクセス、選択、自律へのアクセスを否定されることにつながる。脱施設化計画を立案・実施する際には、これらのリスクを考慮する必要がある。


C. 障害のある子どもと若者(adolescents)
43.障害のある子どもにとって、脱施設化は、その子どもの最善の利益に従って、家族生活を営む権利の保護を意味する。子どもにとって、地域に含まれる権利の核は、家族のなかで育つ権利である。子どもからすると「施設」とは、家族を基盤としないあらゆる居場所のことである。大規模または小規模のグループホームは、子どもにとって特に危険である。入所施設の維持を正当化したり奨励したりする国際基準は、条約と矛盾しており、見直すべきである。


44.締約国は、すべての障害のある子どものために、家族生活を営む権利を確保すべきである。家族には、既婚および未婚の親、片親、同性同士の親、養子縁組家族、親族、きょうだい、拡大家族、代理家族または里親が含まれる。よい生活環境は、子どもが献身的な大人の養育者と安定した関係を築くことである。元の家族と暮らせない子どもが違う環境を転々とすることを避けるためにあらゆる努力が払われるべきである。国際的な資金援助は、孤児院、入所施設、グループホーム、子ども村などを支援してはならない。


45.実際に機能障害がある又は機能障害があると思われる子ども、貧困、民族、その他の社会的帰属に基づいて施設に入れられた子どもは結果として、施設措置により機能障害を発症する、あるいは現存の機能障害を悪化させる可能性が高い。障害のある子どもとその家族に対する支援は、可能な限り早い時期に、すべての子どもに対するメインストリーム支援において行われるべきである。子どもや若者に対するピアサポートは、完全な地域のインクルージョンのために不可欠である。


46.子どもは家族以外の環境に短期間おかれただけでも、大きな苦しみやトラウマ、感情的・身体的な機能障害を引き起こす。子どもを施設に入れる措置を防ぐことが優先されなければならない。金銭的およびその他の支援を受けられる、家族を基盤とした居場所の機会を障害のあるすべての子どものために創るべきである。代替家庭を考える前に、元の家族における模索が検討されなければならない。


47.条約第23条4項は、子どもの障害に基づく、あるいは親の障害に基づく親子分離を禁止するものである。締約国は、障害のある親に対し、子どもが施設に入れられるのを防ぐための支援と合理的配慮を提供し、インクルーシブな子どもの保護制度を行うべきである。


48.障害のある子どもは、すべての子どもと同様に、自分に影響を与える事柄について意見を聞かれ、自身の意見が重んじられる権利がある。この場合、障害またはジェンダーによる差別なしに、年齢、成熟度に従って十分に考慮され、年齢、障害に応じた、またジェンダーに配慮した支援を受けることが必要である。障害のある子どもや若者が、個人の選択や公的な政策決定に関することについて、自分の意思や希望を表現し関わることができるよう、支援や調整が図られるべきである。親、親戚、介護者は、障害のある子どもが自分の意見を表明することを支援する上で重要な役割を果たすことができる。彼らは子どもの意見を考慮に入れるべきである。


49.障害のある子どもや若者は、施設での生活をするかどうかの「選択」することはできない。障害のある若い人は、どこで誰と暮らすかを選択する機会を与えられなければならない。なお、自立した生活環境とは「あらゆる種類の居住施設の外での生活環境」を指すことを念頭に置くべきである。


50.締約国は、障害のある子どもと若者に対し、パーソナル・アシスタントおよびピアサポートを含む地域支援サービスを開発し、その利用を確保すべきである。教育制度はインクルーシブでなければならない。締約国は、障害のある子どもを普通学校(mainstream schools)に入れ、地域のインクルージョンを損ない、子どもを施設に入れる圧力の増大につながる分離教育への措置を防ぐべきである。


51.子どもの施設収容を防ぐために、家族と子どもが必要な情報にアクセスできるようにしなければならない。それは、学校、コミュニティセンター、医院、医療施設、子育てセンター、宗教施設などを通じて、複数の使いやすい形式で提示されるべきである。障害の人権モデルに関する専門職(子ども保護の専門職を含む)の研修は、家族が子どもを施設に入れるよう勧められたりするような状況を防ぐために重要である。


D. 障害のある高齢者
52.すべての脱施設化の取り組みには、施設に入所しているか入所のリスクがある認知症の人など、障害のある高齢者も対象としなければならない。脱施設化は、「認知症村」など、高齢者のための障害に特化した施設とその他の施設の両方を対象とすべきである。締約国は、地域と自宅での支援やサービスの利用で、障害のある高齢者に対する差別が起きないように防止する必要がある。


Ⅴ. 法律と政策の枠組みを有効にする
53.締約国は、障害のある人が自立して生活し地域に含まれることを妨げる、法律および規制を廃止し、慣習および実践を修正または廃止すべきである。法的および政策的枠組みは、すべての障害のある人の完全なインクルージョンを可能にし、施設の閉鎖に向けた脱施設化プロセスを導くものでなければならない。このような枠組みは、インクルーシブな地域支援制度とメインストリームサービスの開発、賠償メカニズムの構築を可能にし、脱施設者に対する救済措置の利用可能性、アクセシビリティ、有効性を保証するべきである。締約国は、包括的な法改正の欠如が不作為の言い訳にならないことを前提に、手続きを進めなければならない。


A.権能を与える法環境(an enabling legal environment)を創る
54.脱施設化を可能にする法的環境は、すべての障害のある人について、以下の基本的権利とともに、パーソナル・アシスタンスを受ける権利など自立して生活し、地域に含まれる権利の法的承認を含んでいる。


1.法的能力への権利
55.一般的意見第1号(2014)に従った法的能力に関する法改正は、脱施設化と同時に直ちに実施されることが重要である。障害のある人(施設収容者を含む)が、後見人、強制的な精神医療処置、またはその他の代替的意思決定の枠組みの対象である場合、それらの措置は直ちに解除されなければならない。強制的な精神医療を防ぐためには、当事者による肯定的で自由な、そして十分な情報に基づいた同意の表明が必要である。施設に現在、収容されている障害のある人の意思決定は、脱施設化プロセスのなかで尊重されるべきである。彼らには、本人の意思と希望を完全に実現し、法的能力を行使するために必要な調整と支援が提供されなければならない。法的能力を行使するための支援は、障害のある人が地域に定着した後も、必要であれば継続すべきである。


2.司法へアクセスする権利
56.司法へのアクセス、特にジェンダーに基づく暴力を経験した施設に居住または退所する女性および少女によるアクセスは、脱施設化において重要である。施設に入れられた人を含む障害のある人の司法へのアクセスに対する、環境、態度的(attitudinal。訳注 障害のある人の司法への権利を軽んじるような司法関係者の対応など)、法、コミュニケーション、法的手続きにおける障壁は、すべての法的領域にわたって取り除かれるべきである。わかりやすい版(Easy Read 訳注 障害のある人にも読みやすいように一定のルールで工夫された文章)や平易な言葉など(特にこれらに限定されることなく)、合理的かつ手続き的配慮が図られることが重要である。裁判所や裁判における法的地位と、無料かつアクセシブルな法的代理権が確実に提供されるべきである。締約国は、障害のある人は手続きに参加することはできない、または刑事責任を問われないという法文上の宣言を排除するために、刑法および手続き法を改革しなければならない。締約国は、障害のある人が証言を行い、証人として立つ権利を認めるための法律と司法手続きが整備され、施設にいる人が施設にいる間に警察に通報し、刑事告発を行う有効な権利を有することを確保しなければならない。


57.子どもまたは成人が施設におり、自ら苦情を申し立てることができない場合、国内人権機関および擁護団体が法的措置をとる権限を与えられることがある。これは、本人の自由意志と十分な情報を得た上での同意があるか、あるいは、本人の権利が危うく、本人の意志と希望についての最善の解釈に基づく真の努力にもかかわらず、本人から意志の表明を得ることが不可能であった場合にのみ、行われるべきである。障害に基づく拘禁からの解放と新たな拘禁の防止は、即時の義務であり、裁量的な司法・行政手続きの対象としてはならない。


3.自由と安心に対する権利
58.「精神疾患または障害」に基づく非自発的な拘留または治療など、機能障害に基づく、自由の剥奪またはその他の自由と安心への制限を認めるすべての立法規定は廃止されるべきである。具体的には刑事手続きに適用される保護手段(security measures)、後見制度およびその他の代替的意思決定制度、子どもを含む精神科入院に関する規定は廃止されるべきである。締約国は、独断的に拘束されている場所から障害のある人が離れることができるよう、緊急支援を提供すべきである。


4.平等と非差別への権利
59.締約国は、障害に基づく施設収容が、障害のみの理由または他の理由との組み合わせで、禁止された差別に相当することを法律で認めるべきである。


B.法枠組みと資源
60.既存の法律、規制の枠組み、政策、予算、公的サービス構造、地域に密着した非公式な支援、新しい支援の要素、人材の適切な関連付け(マッピング)に関する情報は、脱施設化を支援する法律と政策の包括的な改革に不可欠である。関連付けのプロセスは、施設の閉鎖を遅らせるためではなく、脱施設化を加速させるために実施されるものでなければならない。


1.立法
61. 条約(Primary law)、法律(secondary law)、規制法、その他の法源は、すべての分野にわたって体系的に以下の目的で見直される必


(a) 障害に基づく施設収容を促進または可能にしている条項を、廃止する視点で特定すること。
(b) 自立して生活し地域に含まれる権利、および関連する権利の法的規定と実現可能性との間のギャップを特定し、そうしたギャップを改善するための立法提案を開始すること。
(c) 合理的配慮を提供しない、または地域内で支援を行わないなど、障害を理由にした施設収容と差別に対して、障害のある人が有効な法的救済を利用できるよう保証すること。


62.条約と調和させる必要のある法律には、法的能力を規定する法律条項、障害者法、反差別法、家族法、保健法、民法、子ども・大人・高齢者への社会的ケアの提供を規定する法律、社会保護法などがある。このような法律は、条約と委員会の一般的意見にしたがって見直されなければならない。精神保健法における障害のある人の施設収容を認める規定は廃止すべきである。


2.施設の環境と施設に住む障害のある人の状況
63.現存する施設をはっきり描き出す必要がある。締約国は、現在施設に投入されている資金を特定し、これを障害のある人が表明している要求に応えるサービスに再配分しなければならない。そして各個人が持つネットワークおよび重要な地域のつながりを描き出す必要がある。それは、意思と希望に応じて、各個人が必要とする支援を計画する際、支援サービスおよびメインストリーム地域サービスの要素を開発・適応する際に利用することができる。


3.地域に密着したサービス
64.既存の地域に密着したサービスは、包括的に関連付けされるべきである。分離された、医療化された、あるいは障害のある人の意志と希望に基づかないサービスは中止すべきである。計画は、さまざまな質の高い地域に密着したサービスの利用可能性、アクセシビリティ、受入れやすさ、手頃な価格、適応性を確保すべきである。


4.支援システムの新しい要素を特定する
65.締約国は、障害のある人の団体と緊密に協議して、次のことを行うべきである。


(a) 障害のある人への支援におけるギャップと、開発すべき新しいサービス構造の必要性を特定すること。
(b) パイロット・プロジェクトを開発し、導入し、評価すること。
(c) 幅広い支援の仕組みやサービスが地域社会に存在し、集中的な支援を必要とする人や言語によるコミュニケーションに代わる手段(訳注 ジェスチャーコミュニケーション,ピクチャーコミュニケーション、コミュニケーションボードなど)を用いる人など、すべての障害のある人が自らの支援を計画し指示できること、また障害のある子どもの家庭が、子どもとしても、かつ障害のある人としても等しく支援されることを確保すること。


(d) 支援サービスが障害のある人の意志と希望に応じるようにすること。
(e) 支援の選択と管理において、支援を必要とする可能性のある人を含め、障害のある人が真の選択を持ち、条約を遵守していないサービスのなかから選択することを義務付けられていないことを保証すること。


5.人材の分析
66.締約国は、人口構成と雇用の動向を含めた人材と、これらの動向が脱施設化に及ぼすと考えられる影響との関連を対応付けなければならない。締約国は、条約に準拠したサービスの提供のために、人材の転換の実現可能性を評価し、改善のための優先順位を定めるべきである。サービスは、もっぱら当事者である障害のある人、または障害のある子どもの両親もしくは保護者の指示のもと、子どもの意見を十分に尊重しながら提供されなければならない。人権侵害を行なった人には、新たなサービスを提供する資格が与えられるべきではない。


C.脱施設化戦略と行動計画
67.締約国は、脱施設化のための質の高い、かつ構造化された計画を採用すべきである。この計画は、包括的なものでなければならない。そこには,タイムライン、ベンチマーク、必要かつ割り当てられた人的、技術的および財政的資源の概要を含む詳細な行動計画が含まれなければならない。締約国は遅滞なく、利用可能な資源を最大限に活用することが重要である。脱施設化の戦略には、その実施過程において政府横断的なアプローチが必要である。これには、立法修正プロセスを開始・主導し、政策立案、計画作成、予算編成を指示する十分な権限を持つ、内閣または同等レベルの、ハイレベルな政治的リーダーシップと調整が必要である。障害のある人およびその代表団体(障害児や特に脱施設者の代表団体も含む)は、脱施設化のすべての段階で関与、協議に関わらなければならない。


68. 障害のある人(特に脱施設者)およびその代表団体との協議をもとに作成された、脱施設化プロセスによって何を達成すべきかを明確にした宣言声明は、脱施設化の戦略および行動計画の基礎となるものでなければならない。


Ⅵ.インクルーシブな地域支援サービス、システム、ネットワーク
A.支援システムとネットワーク
69. 支援システムとネットワークとは、個々人が意思決定や日々の活動に必要な支援を提供する家族、友人、隣人、あるいは信頼できる人々とともに作り上げる関係であり、障害のある人が自立して生活し、地域に包摂される権利を行使するために必要なものである。支援システムは、障害のある人が地域に参加し、完全に受け入れられるようにするために重要である。支援システムは、一部の障害のある人々、特に知的障害のある人や多くの支援が必要な障害のある人にとって、必要とされる支援サービスを探し、決定する上で重要である。


70. 締約国は、ピア・サポート、セルフアドボカシー(自己権利擁護)、支援サークルおよびその他の支援ネットワーク(障害のある人の団体、特に脱施設者の団体を含む)と自立生活センターに投資すべきである。締約国は、それらの団体の誕生を奨励し、財政的支援を提供し、人権、アドボカシーおよび危機支援に関する研修へのアクセスおよびその設計に資金を提供するべきである。


71.締約国は、非公式な支援の存在を認識し、地域および家族が、障害のある人の選択や意志および希望を尊重した支援を提供するときに、研修と支援を受けるようにすべきである。障害のある人が家族または地域による支援を希望するかしないかに関わらず、その人が幅広い選択肢を利用できるようにすべきである。


72. 支援者、支援サークル、支援ネットワークは、障害のある人本人によってのみ選択されるものであり、司法や医療機関、家族、サービス提供者などの第三者によって選択されるものではない。支援者は、障害のある人の意思や希望を尊重しなければならない。障害のある人の意思に反し支援者を選任してはならない。


73.ピアサポートは、施設や医療専門職から独立し、障害のある人によって自律的に組織されなければならない。ピアサポートは、特に脱施設者にとって重要であり、また意識改革向上、意思決定の支援、危機時の支援と一時的危機回避,自立生活、エンパワーメント、所得創出、政治参加、社会活動への参加などにおいて重要である。


74.障害のある人が家族から支援を受けることを決めた場合、地域で本人が自立して生活するために、家族への適切な支援サービスが提供されるべきである。それによって、障害のある人が地域で自立して生活するのを支援することができる。支援の設定には、支援を受ける障害のある人や障害のある子どもの親または保護者にとって受け入れ可能な多様な支援者を含めることができ、そこでは支援の継続性と質を確保することが大切である。締約国は、支援サークルや家族のピアサポートなどの非公式な支援を認めるべきであり、相談支援などの地域に密着した支援に資金を提供すべきである。このようなサービスは、たとえ短期間であっても、障害のある子どもや大人を施設に入れることを意味してはならない。


B.支援サービス
75.支援サービスは、本人が希望する場合には、その人の完全な参加と広い支援ネットワークを確保し、障害のある人の意思と希望を尊重する人権モデルに従って開発されなければならない。障害のある人が自立して生活し、地域に含まれるために必要な支援の範囲を特定する際には、自己評価ツールを優先させるなど、人間中心のプロセスが用いられるべきである。締約国は、新しいニーズ評価ツールを開発する際に、医学的基準だけを使ったり、または医学的基準に第一義的に依存してはならない。医療専門職は、障害のある人に関する評価や意思決定において、他の専門職よりも優位または高い地位を得たり、いかなる決定権も付与されたりするべきではない。


76. 締約国は、自分の地域で利用できる、精神保健の診断または治療を必要としない一次サービスとして、本人の自己認識、意思および希望を十分に尊重した、医療システム以外のサービス選択肢を確保すべきである。これは、災害支援、長期的・断続的あるいは緊急の意思決定支援、トラウマからの回復支援、そのほか、地域で暮らし、連帯と交流を享受するために必要な支援など、苦痛や通常とは異なる経験に対する支援に役に立つものでなければならない。


77. 地域に根ざしたリハビリテーション(CBR: community-based rehabilitation)または地域に根ざしたインクルーシブ開発(CBID: community-based inclusive development)の枠内で提供される障害関連支援サービスは、地域内の既存のサービスや既存のネットワークとリンクすべきである。障害関連支援サービスは分離させてはならず、障害のある人の隔離や孤立を強化するものであってはならない。デイケアセンターや保護雇用(sheltered employment)は、条約を遵守していない。


78.支援サービスの財源モデルは柔軟であるべきであり、「供給量」(supply)によって制限されるべきではない。締約国は、多様な個人の要求と希望に応えるため、新しい形態の支援を考案するという選択肢を含め、個人の選択と管理を尊重し、幅広い柔軟な支援サービスの創造と開発に投資すべきである。


79.締約国は、障害のある人が施設収容後に実家に戻ることを選択しても、その人の恒久的な独立した住宅に入居する権利を奪ってはならない。


80.支援は、障害のある人の選択および管理のもとにおかれるべきであり、不本意に課されたり、障害のある人の自律性、自由またはプライバシーを侵害する方法で提供されたりしてはならない。締約国はその目的のために、本人の意思や希望に合う個別に合わせた様式などの保護手段と、アクセシブルで秘密保持に配慮した誤った支援の場合の通報方法を整備すべきである。締約国は、公的・民間を問わず、全ての支援サービスが条約に準拠した倫理規範の枠組みで行なわれることを保障しなければならない。


81.高齢の障害のある人に対する支援は、その人が地域のなかで自分の家でずっと暮らせる機会を提供すべきである。障害のある人は、老齢に達した時点で、パーソナル・アシスタンスなどの支援を受け難くなることがあってはならない。それどころか、締約国は、必要に応じて長期的に地域の支援を増やすべきであり、決して施設収容に頼ってはならない。


82. 障害のある子どもは、特有の支援サービスを必要とするであろう。締約国は、子どもとその家族に提供される支援が、子どもの分離、排除、または放置を強化しないことを保証すべきである。むしろ、支援は障害のある子どもがその可能性を十分に発揮できるようにするものでなければならない。


C.個別支援サービス
83.締約国は、施設を退所する人を含めてすべての障害のある人が、必要に応じてパーソナル・アシスタンスを確実に利用できるようにすべきである。そして、障害のある人がパーソナル・アシスタンスを利用するかどうかを判断するために、それがどのように機能するかについての情報が与えられるようにしなければならない。


84.締約国は、一般の支援者たち、支援機関の職員、直接支援の専門職(ヘルパー)、パーソナル・アシスタンスなど、様々な種類の個別的で人間中心の支援サービスを提供すべきである。


D.支援機器
85.締約国は、典型的で伝統的な支援機器を含む購入しやすい支援技術へのアクセスを増加および確保し、最新の情報通信技術および機器へのアクセスを確保するべきである。一般の人々が高度な技術を利用可能である限りは、障害のある人にも適切な適応措置をもって、その技術への同等なアクセスが提供されなければならない。


E.所得支援
86.障害のある人は、本人の意思と希望に従って、基本的な所得保障と、施設収容による被害を修復するために必要なものも含めて、医療および障害関連費用をカバーする個別にかつ直接支払われる財政的支援を受けるべきである。個別の財政的支援は通常、本人の要求に応じて、また緊急の場合に、見直されなければならない。財政的支援は、生涯にわたる費用の変化に適応させ、インフレを考慮する必要がある。利用者主体の資金調達手段の利用を促進するために、ピアサポートやセルフアドボカシーを通じて行政支援とエンパワーメントが利用可能であるべきである。施設を退所する人への所得支援は、新しい生活様式に合わせたものにする必要がある。


87.障害関連費用をカバーする所得支援の対象は、個人または世帯の一般所得に縛られるべきではない。締約国は職業関連の収入に関係なく、すべての障害のある人が自立して生活するための費用をカバーする財政的支援を受けることを保証すべきである。


88.障害のある人のサービスのための財政支出(budgetary allocation)は、障害のある人または障害のある子どもの保護者の直接管理の下におかれるべきで,施設の外でどこで誰と暮らすか、もしあるならば、どのサービスを受けるかについて効果的に決められるように、ニーズに合った支援形態、合理的配慮、様々な選択肢を持つことを保証しなければならない。締約国は、障害のある人が地域でサービスを使い管理するための奨励金と支援を提供すべきである。締約国は、多くの支援を必要とする人を含む障害のある人に対して、個人の資金管理のための行政的な支援を提供すべきである。


89. 障害のある人とその家族の貧困は、施設収容の主な理由の一つである。締約国は、障害のある人が適切な普通の生活を享受できるように、本人、その扶養家族、および障害児の家族を含めた、支援者の役割を持つ親族に対して、十分な全般的な所得支援を提供すべきである。このような支援は、就労と両立しないものと考えてはならない。扶養義務のために不利な生活進路をとっている家族には、追加的な支援が提供されなければならない。


Ⅶ.他の者と平等にメインストリームサービスにアクセスする
90.脱施設化の計画は、次の領域で、アクセシブルで、求めやすい料金で、質の高い多様なメインストリームサービスを障害のある人が確実に使えるようにしなければならない。その領域とは、個人の移動、アクセシビリティ、コミュニケーション、医療、家族生活、相当な生活水準、インクルーシブ教育、政治的または公的活動への参加、住宅、社会的保障、文化的および地域活動、余暇、レクリエーションおよびスポーツへの参加などである。締約国は、メインストリームサービスへのアクセスが差別されず、評価、家族の支援または社会的支援の状況、服薬遵守の状況、障害の「重さ」あるいは支援要求の強さ、「精神衛生状態」の判定結果、その他の不適格な事項、などによって条件付けられず、保留されず、または拒否されないことを保証すべきである。


91.締約国は、合理的な配慮の提供を確保しつつ、教育や雇用などの領域でメインストリームサービスをすべての人が利用でき、アクセスできるようにすることで、施設収容を防ぐべきである。


92.メインストリームサービスへのアクセスは、脱施設化の準備、地域での居住地の選定、地域での定住においても、それ以降において、計画され確保されるべきである。十分な生活水準と社会的保護などの地域の資源へのアクセスは保証されなければならない。締約国は、一時的な措置として、または生活するための“足がかり”として、暫定的な施設サービスを利用することを禁止すべきである。


A.施設を退所する準備
93.脱施設化とは、施設収容という不当な慣行を転換することである。脱施設化は、その人がまだ施設にいる間に始まり、各個人に合わせた計画プロセスを伴う。すべての人は、自身の施設収容を終わらす(deinstitutionalized)平等な機会をもたねばならず、いつでも施設を退所することができる。多くの支援を必要とする人を含め、いかなる人も脱施設化のプロセスから取り残されてはならない。


94.締約国は、施設の職員が、人権に基づいた、回復を目指した、本人中心的な脱施設化のアプローチについて研修を確実に受けるようにすべきである。脱施設化の計画プロセスには、対象としている障害のある人の意思と希望に沿った信頼できる人物(家族、友人などを含む)が関与すべきである。施設に収容されている人と脱施設者に対するピアサポートは、完全なインクルージョンへの計画と移行の一部として促進されなければならない。施設収容された人の家族には、施設収容がもたらした被害に対処し、施設を出るときに建設的に支援する準備をするために、情報と指導、経済的・行政的支援、専用サービスが提供されるべきである。


95.施設を退所する人は、以下のような状態に置かれなければならない。
(a)施設を退所する際のあらゆる面において、必要であれば支援を受けながら、意思決定者として尊重される。
(b) 地域で生活するために、身体的および精神的に準備するための十分な時間および機会が与えられる。締約国は、すべての障害のある人に彼らの意思と希望による個別化された計画が整っていることを保証する。
(c) 彼らが個別計画のプロセスの中心にいる。
(d) 賠償が支払われることになっていて,脱施設化の真実委員会(truth commission訳注 政治的抑圧や人権侵害の真相を明らかにし、被害者の復権を目指すと共に和解を達成するために設置された委員会)および賠償を計画し実施する過程に完全に参加するための情報や機会が与えられる。
(e) 施設を出る準備として、経験、強み、社会性、生活技術を身につけ、恐怖心を取り除き、自立するという前向きな経験を積むために、地域での幅の広い経験を提供される。
(f) 住宅の選択肢、交通、労働と雇用、個別の資金援助、その他相当な生活水準を確保するための情報を受ける。


96.締約国は、施設を退所する人に対して、出生登録や市民権の確保に対するすべての障壁を取り除き、公的身分証明書(市民ではない人のための代替文書を含み、人道的事態下での代替文書を含む)を提供すべきである。これには、過去にさかのぼって使われるような文書も含め、国民IDカード、居住許可、有権者登録、雇用番号、社会保障カード、障害者カードおよびパスポートなどの該当するすべての文書が含まれるものとする。すべての文書は退所時までに提出されなければならない。締約国は、退所以前の状態について、差別的または軽蔑的なマーカーまたは記述が存在しないこと、およびすべての医療関連の文書についてプライバシーおよび機密性の最高水準の保護がなされることを保証しなければならない。


97.金融機関、保険その他の金融サービスは、障害のある人が他の者と平等に、金融に関するインクルージョンの権利を享受できるよう、あらゆる障壁を取り除くべきである。元施設収容者であることに基づき、照会、尋問、身元調査を受けることは、禁止されている差別とみなす。


98.施設の運営に責任を持つ当局および職員、司法および法執行機関の職員は、障害のある人が地域で生活する権利や障害のある人に合ったコミュニケーション(accessible communication)に関する研修を受けなくてはならない。締約国は、施設を退所する人の新天地での行政的または法的監視を禁止すべきである。施設運営管理者と職員は、地域で「ケアの継続」をしてはならない。


B.地域で自立して生活する
99.施設を退所する人は、日常生活、人生経験、地域でうまくやっていける機会のための、幅の広い可能性を必要としている。締約国は、他の者と平等に次の権利を擁護する一般義務を果たさなければならない。
· アクセシビリティ
· 個人の移動
· プライバシー
· 心身がそのままの状態で尊重されること
· 法的能力
· 自由
· 暴力・虐待・搾取および拷問その他の虐待からの自由
· 教育
· 文化・娯楽への参加
· 政治的活動への参加


100. 締約国は、障害のある人のインクルージョンに関する啓発活動を支援し、インクルージョンの価値と実践に関する家族、近隣、地域の可能性を高めるべきである。締約国は、障害のある人、特に施設に住んでいる人または脱施設者の参加を積極的に模索することが重要である。地域に密着した団体、個人、近隣グループは、社会的支援の提供において多様な役割を果たし、当事者を地域の資源につなげたり、地域のより広い社会資本の一員として支援を提供したりすることができる。


101.締約国は他の者と平等に、施設を退所する人が交通機関を利用できること、都市、地方および近隣地域を自由に行き来できること、および公共空間を利用できることを確保すべきである。


102.締約国は、障害のある人が自宅や近隣への安全な帰り道をみつけられるなど、一人で安全に都市部を移動できるように、公共空間のアクセス性を確保する義務を果たすべきである。そのために、障害のある人にやさしいパトロール、道路関連のアクセシビリティ、完全にアクセス可能な情報およびコミュニケーション(わかりやすい版の使用など)やサポートサービスの提供に考慮すること。


103. 締約国は、施設を退所する人に対して、他の者と平等に、プライマリーヘルスケア(primary health care 訳注 健康を基本的な人権として認め、その達成過程に住民の主体的な参加や自己決定権を保障する理念、およびこの理念に基づく第一線の保健医療サービス)、ハビリテーション/リハビリテーション、支援機器を含む総合的な医療を確保すべきである。医療サービスは、施設を去る障害のある人の選択、意志、希望を尊重し、障害の医学的モデルを埋め込むことを控え、必要に応じて追加の医療支援を提供すべきである。これには、自由意思に基づくインフォームドコンセントに基づき、全般的な健康と幸福を取り戻すという観点から、精神科の投薬をやめ、栄養プログラムやフィットネスプログラムを利用するための支援が含まれる場合がある。


104. 締約国は、施設を退所した人が他の者と平等に雇用にアクセスできるようにし、保護された雇用または分離された雇用を禁止しなければならない。締約国は雇用において、施設を退所する人が直面する障壁を取り除くインクルーシブな法的および政策的枠組みを確保すべきである。施設を退所する人が労働と雇用に対する権利を行使するために、意思決定のための時間と支援を可能にする、さまざまな選択肢が提供されるべきである。


105.締約国は、施設を退所する人にとってホームレスおよび貧困のリスクが非常に高いことを認識すべきである。施設を退所するすべての障害のある人には、住居に落ちつくための緊急および中期的なニーズをカバーするために、強固な社会的保護のパッケージが提供されなければならない。また、長期的な経済的・社会的支援も生涯にわたり利用できるようにすべきである。締約国は、障害のある人や障害のある子どもの家族が他の者と平等に既存の社会保護措置(例えば、子ども支援、失業給付、家賃補助、フードスタンプ(訳注 補助的栄養支援プログラム)、年金、公衆衛生制度、補助付き公共交通機関、税額控除など)を利用できることを確保するものとする。社会的保護の受給者であることは、治療条件、後見、雇用に関連する資格基準に結び付けてはならない。障害のある人に関連する社会保護制度は、障害に関連する(障害があるためにかかる)費用に対する資金提供を含むべきである。


106.施設を退所する人に対しては、その社会的および経済的エンパワメントを促進し、隔離や施設収容を防ぐために、生涯学習の機会、学校教育を修了する機会、または徒弟制度もしくは高等教育を受ける機会などインクルーシブ教育へのアクセスを差別なく持てるようにするべきである。締約国は、施設を退所する障害のある人や子どもが、利用しやすい形式の情報にアクセスできるようにし、教育を継続または完了するために必要な教育機会を知り、本人の意思および希望に従って勉学に励むことができることを確保するものとする。


Ⅷ.紛争を含む人道上の緊急事態と危機的な状況における緊急の脱施設化
107.パンデミック、自然災害、紛争などの緊急事態の間も、締約国は施設を閉鎖するための努力を継続し、かつ加速させるべきである。また、気候変動が障害のある人、特に施設にいる人たちに大きな影響を及ぼすことを認識すべきである。緊急事態においては施設収容を防ぐために、施設にいる障害のある人、障害のある国内避難民(訳注 内戦、災害などで家を追われ、自国内で避難生活を余儀なくされている人々)、障害のある孤児、親から引き離されている障害のある子ども、障害のある難民を特定する早急な取り組みが必要である。避難、人道的救済、復興におけるインクルージョンの確保、および危険な状況や緊急状況における完全なアクセシビリティを確保するために、対象を絞った取り組みが必要である。緊急・復興資金は、施設収容を継続させるために使われてはならない。むしろ、脱施設化の加速化計画を復興努力や国の脱施設化戦略に盛り込み、緊急時に即座に実行に移すべきである。


108.緊急事態には障害のある人に対する追加的な措置が必要となるだろうが、そのために脱施設化のための緊急行動や長期計画を変更することを要求してはならない。緊急事態であっても、締約国は国際的に合意された最低限の中核的基準を維持し、隔離、虐待、障害に基づく差別、トリアージプロトコルにおける偏見を防ぎ、予防可能な傷病と死亡を避けるべきである。障害に基づく抑留の禁止と法的能力に対する権利は、緊急事態の際も守られるようにしなければならない。締約国は、障害のある人が人権を遵守した支援サービスを利用できるようにし、「人道的行動における障害のある人のインクルージョンに関する機関間常設委員会指針(Inter-Agency Standing Committee’s Guidelines on Inclusion of Persons with Disabilities in Humanitarian Action)」を適用すべきである。これらの基準に沿って、危険な状況や人道的な緊急事態においては、障害のある子どもも確実に家族の追跡調査(retracing)や再統合の対象に含め、すべてのプログラムや行動で非差別が確保されなければならない。


109. 緊急時の脱施設化を継続し加速するための締約国の計画は、障害のある人およびその代表団体、特に脱施設者の団体から情報を得るべきである。締約国およびその他の利害関係者(人道支援関係者など)は、障害インクルーシブな,危機からの地域の回復力を目的とした措置が、障害のある大人や子どもと施設に残っている人を代表するすべてのレベルの団体の積極的参加および調整と有意義な協議を伴うようにしなければならない。これらの団体は、緊急対応、救援、復興のプログラムや政策の策定、実施、モニタリング、評価に参加すべきである。


110.緊急時には、障害のある人のうち、最も健康リスクの高い人を優先的に脱施設化すべきである。


111.危険な状況や人道的緊急事態においては、障害のある女性や少女は、性やジェンダーに基づく暴力のリスクが障害のない女性に比べ高く、立ち直り策やリハビリテーションサービス、あるいは司法へのアクセスを持ちにくい。彼女らは、ジェンダーに基づく複合的かつ交差する差別を経験する可能性が高く、施設収容のリスクも高い。締約国は、緊急事態への備え、対応、復興に関連する法律、政策、プログラムにおいて、交差性のある障害インクルージョンの手法を用いる必要がある。これには障害インクルーシブな救済プログラム、保健サービス、性と生殖に関する保健サービス、ハビリテーション、リハビリテーション、支援機器、パーソナル・アシスタント、住宅、雇用、地域に密着したサービスへの優先的なアクセスなどがあるが、これに限定されるものではない。


112.緊急事態への備え、明確な時間枠をもった対応と復旧、十分な資源、予算配分、研修を受けたスタッフと明確な責任などの内容には条約の原則が盛り込まれるべきである。脱施設化は、退避のシナリオ、アクセシブルな情報提供および通信のヘルプラインの提供などを含めて(ただしこれに限定されない)、国の緊急事態対応プロトコルに含まれるべきである。締約国は、人道的救援がアクセシブルで差別のない方法で分配され、緊急避難所と難民キャンプにおける水、衛生設備が障害のある人にとって利用しやすいことを確保するべきである。性的搾取、虐待、ハラスメントの防止と保護、および男女平等の確保は、国家復興戦略の一部であるべきである。


113. 締約国は、緊急事態の後、施設が再建され、障害のある人を再入居させたりしないようにすべきである。締約国は、障害のある人が対応と復興プロセスに取り残されないようにするために、施設から地域支援・サービスへの資金移転措置を含め、十分な資金と人的資源を提供すべきである。難民や国内避難民は、緊急事態の後や紛争が収まったときに、施設に戻されるべきではない。締約国は、障害のある難民が必要に応じて社会的支援、メインストリームサービス、合理的配慮につながるようにすべきである。


114.緊急事態への備え、また緊急事態の間において、締約国は、細分化されたデータの使用と収集を確実に行うべきである。災害リスク軽減には、マルチハザードのアプローチ(訳注 多様化する危機要因への対応アプローチ)と、インクルーシブなリスク情報に基づく意思決定が必要である。この意思決定は、性別、年齢と障害別などに細分化されたデータ、障害のある人の人道的プログラムサイクル全体で必要な、支援に関するアクセシブルな情報の、オープンな交換と普及に基づいたものでなければならない。施設に暮らす人々や脱施設化プロセスへの移行段階にある人についても、同様のデータと情報が求められる


Ⅸ.救済、賠償、補償
115. 締約国は、あらゆる形態の施設収容を、条約に述べられている権利の多重侵害であると認識すべきである。権利侵害を悪化させる要素としては、効果的な補償の拒否、滞在期間の長さ、強制的な医療干渉またはその他の暴力もしくは虐待、および非人道的かつ品位を傷つけるような状況などがある。


116.締約国は、障害者権利条約と次のような国際的指針等の下での国際的義務に沿って、施設収容およびその結果生じる被害を特定し是正することに責任を持つ必要がある。


· 障害のある人のための司法アクセスに関する国際原則および指針 (the International Principles and Guidelines on Access to Justice for Persons with Disabilities)
· 身体の自由及び安全についての権利(訳注 条約第14条)に関する委員会の指針 (the Committee’s guidelines on the right to liberty and security of persons with disabilities)
· 自由を奪われた者が裁判所に訴訟を提起する権利に関する救済措置と手続きに関する国連の基本原則と指針 (the United Nations Basic Principles and Guidelines on Remedies and Procedures on the Right of Anyone Deprived of Their Liberty to Bring Proceedings Before a Court)
· 国際人権法の重大な違反と国際人道法の重大な違反の被害者のための救済と賠償の権利に関する基本原則と指針 (the Basic Principles and Guidelines on the Right to a Remedy and Reparation for Victims of Gross Violations of International Human Rights Law and Serious Violations of International Humanitarian Law)


117.締約国は、あらゆる形態の施設収容によって引き起こされる被害の性質および範囲について特定し認識を高め、法律および政策の変更を勧告するためのメカニズムを創るべきである。また締約国は、補償、賠償、修復的司法(restorative justice 訳注 犯罪の加害者、被害者、地域社会が話し合うことで、関係者の肉体的・精神的・経済的な損失の修復を図る手法)、および他の形態の説明責任を求めることを望む障害のある人のために、個別に、アクセシブルで、効果的、迅速かつ参加型の司法へのアクセスができる方法を提供するべきである。施設収容に関与した当局および専門家は、補償および賠償のためのメカニズムの作成または実施において役割を持つべきではないが、説明責任を果たすように勧めなければならない。


118.補償のメカニズムは、障害のある人の施設化によって引き起こされるあらゆる形態の人権侵害を認識するべきである。補償と賠償は、現在も継続しているか結果として生じた、施設収容中および退所後に被った権利侵害と個人の生活への影響、あるいは交差的な被害に対応したものでなければならない。


119.締約国は、施設収容を経験した障害のある人を代表するすべてのグループと協議して、脱施設者に正式に謝罪するためのメカニズムを導入し、また、社会全体で脱施設者の地位を高めるためのさらなる教育的視点、歴史的視点、その他の文化的措置を実施するべきである。締約国は、施設内で生活している間に、または施設収容の結果とし経験した痛み、苦しみ、間接的な損害を補償する水準で、脱施設者に対する無条件な補償の提供を導入すべきである。そのような報酬金銭裁定は、訴訟やその他の形で司法に関与する個人の既存の法的権利を損なうものであってはならない。


120.賠償は金銭的な補償にとどまらず、原状回復、リハビリテーション又はハビリテーション(これには、条約第26条でカバーされている措置、地域に定着することと、すべての権利と資格を確保するための法的および社会サービス、施設収容によって生じた損害を修復するための保健サービスおよび治癒方法を含めることができる)、ならびに、再発防止についての締約国の保証が含まれるべきである。締約国は、障害に基づく拘禁、施設収容、および障害に関連する拷問および虐待に至るその他の行為を犯罪であるとするよう法制化すべきである。原状回復とリハビリテーション又はハビリテーションは、個人のニーズ、彼らが経験した損失や剥奪に合わせたものでなければならない。そして子どもや出身家族との関係の再確立や、発見され得るあらゆる所有物の回収など、彼らの即時的および長期的な願望や希望に応えたものであるべきである。


121.あらゆる形態の施設収容、および過去と現在の脱施設者にもたらされた被害の全容を調査し、国民の理解を促進するために、真相究明委員会を設立すべきである。これは障害のある人の施設収容の制度を維持していた政策に固有の社会危害に取り組むものである。


122.脱施設者のためのすべての救済措置は、障害のある人、とくに脱施設者の協議および参加を得て、策定および実施されなければならない。締約国は、補償および賠償のメカニズムとプロセスは脱施設者の意思および希望を尊重し、加害者側がその過程で支配的または特別な地位を持たず、また、加害者側にリハビリテーション又はハビリテーション、その他のサービスを提供させないようにするべきである。


123.上記のいずれも、適用される国内法および国際人権法の下で、締約国が障害のある人に対する暴力および虐待の加害者を調査し、訴追する締約国の義務を免除しない。締約国は、脱施設者に対する報復を防止する義務を有する。


Ⅹ.細分化されたデータ
124.締約国は、細分化された統計、調査および行政データを適切かつ倫理的に収集し、これらを意思決定に利用しなければならない。これは、脱施設化のプロセス、脱施設化政策、計画およびプログラムの策定を促進し、効果測定および脱施設化のプロセスを追跡できるようにする。収集される統計およびデータは、すべての公的・民間・宗教組織による施設を対象としなければならない。締約国は、ワシントン・グループの短い設問セット(訳注 ワシントン・グループは、国連統計部のグループの1つで、「短い設問セット」は、「視覚」「聴覚」「歩行」「認知」「セルフケア」「コミュニケーション」に機能制限があるかを捉える設問として多くの国で使われている.)を参照し、一部の障害のある人のグループが排除されないように保証する努力を行うべきである。締約国は、国連の公的統計の基本原則を運用し、データ収集が参加、自己認識、データ細分化、プライバシー、透明性、説明責任に関する確立された基準に合致することを保証する必要がある。


125.締約国は、データ収集の優先順位の決定、障害のある人の特定、および障害のある人の状況および要件に関する情報の提供など、関連するデータ収集過程および利用において、障害のある人と障害のある人を代表する団体の参加を促進すべきである。


126.締約国が収集したデータは、人種、出身民族、年齢、ジェンダー、性別、性的指向、社会経済的地位、機能障害の種類、施設収容の理由、入所日、退所予定日または実際の退所日その他の属性に従って細分化する必要がある。これには、精神科や精神保健施設にいる人の数と動向、退所義務が果たされたかどうか、何人が退所の選択肢を行使したかなどの状況、まだ施設を出ていない人のための計画に関するその他の情報など、信頼でき、アクセシブルで、最新の記録の収集などが含まれる。


127.締約国は、障害のある人、市民社会、研究者、政策立案者が、脱施設化に関する収集データを、さまざまなアクセシブルな形式で利用できるようすべきである(緊急時を含む)。


128.データを収集する際、締約国はデータ保護法などの既存の法的保護を適用し、個人データのプライバシーの権利を最大限尊重すべきである。しかしながら、既存の法律は、障害のある人の法的能力を尊重せず、プライバシーを侵害し、人権の監視および擁護を弱める場合がある。それらは修正されなければならない。データ保護の法律は、データ機密に関する国際基準に整合し、条約に準拠されなければならない。


XI.脱施設化プロセスの監視
129.監視メカニズムは、脱施設化プロセスのすべての段階において、説明責任、透明性、障害のある人の人権の保護と促進を確保すべきである。この監視メカニズムは、人権侵害を特定、防止、救済し、ベストプラクティスに関する勧告を提供しなければならない。また、独立した監視の枠組みと委員会の作業への監視メカニズムの関与についてのガイドラインに従って、条約第33条「国内における実施及び監視」にある義務の全範囲を引き受けることを負託されるべきである。


130.監視メカニズムは、そのプロセスを通じて、障害のある人、特に施設にいる人または脱施設者、その代表団体の実効的な参加を確保するなど、確立された人権モニタリングの原則を遵守すべきである。国内防止機構、国内人権機関およびその他の監視機構には、脱施設化プロセスの監視活動から施設の職員が確実に除外されるようにすべきである。


131.締約国は、条約第33条第2項の下で指定された独立監視メカニズムが十分な資源をもち、物理的に、あるいはその他の方法で、施設、文書および情報に制限なくアクセスできることを確保すべきである。締約国はまた、第33条第3項に基づくものを含め、市民社会および障害のある人の代表団体によって行われる独立した監視活動が促進され、施設、文書および情報へのアクセスに対する障壁が取り除かれることを確保するべきである。


132.すべての監視機構は、公営・民間の施設内の状況や人権侵害を自由に調査することを許可されるべきである。このような調査は脱施設者のプライバシーを尊重するものでなければならない。個人のプライバシーは、人権に関する報告書の公開を妨害してはならないという締約国の義務と密接に関係している。締約国は、プライバシーと機密保持を独立したモニタリングの障壁として引き合いに持ち出してはならない。施設の状況に関する情報を入手し、保存し、公表することは許されるべきである。施設内の状況を写真やビデオで記録することは、人権監視の事実認定結果を補完し、裏付けするために重要である。


133.締約国は、独立したモニタリングの監視を通じて特定されたものを含めて、人権侵害を適時かつ効果的に対処すべきである。


134.締約国は、公営・民間の施設の脱施設者からの個人データ公開要求を、制限なく尊重し促進すべきである。締約国は、公衆衛生または社会秩序の問題を引き起こすことを理由として、医療記録へのアクセスを制限または拒否してはならない。


135. 施設から出る際、障害のある人の記録は、本人の意思と希望に従って、本人に引き渡されるか、抹消されるべきである。開示についての脱施設者の選択は尊重されるべきであり、締約国、法執行機関、医療専門職などによる記録へのアクセスを許可する法的規定は、直ちに廃止されるべきである。


136.締約国は、緊急事態の間、危険性の軽減を可能な限り確保しつつ、監視を継続することを許可すべきである。直接の対面の監視が不可能な場合、締約国は、効果的な独立した監視が確実にできるように、デジタル、電子、または他の遠隔通信の代替手段を採用するための利用可能なすべてのリソースを充てるべきである。


137.居住施設の独立した監視は、すべての施設が閉鎖されるまで行われるべきであり、非常時にも中断してはならない。条約16条および33条3項に基づき、障害のある人、特に脱施設者(障害児を含む)、その代表団体、および独立した市民団体は、独立した監視に関与・参加できなければならない。


XII.国際協力
138. 脱施設化の改革を支援するためには、国際協力が重要である。施設の緊急対応の投資や小規模施設に対する投資など、あらゆる形態の施設収容に対する投資は、条約の「漸進的実現」の原則に適合していない。


139. 国際協力の実施のためのプロセスの透明性と、説明責任メカニズムの独立性は、これらが施設における分離や障害を理由とした高圧的な手段を維持または強化することに使われないようにするために整備する必要がある。これには、細分化されたデータの収集、すべてのプロジェクトとプログラムの独立した監視と評価、および何に資金が提供されたかに関する透明性がある。また、締約国や資金提供者によって苦情申し立てメカニズムが設置されるべきである。


140. 締約国は、国際協力によって資金提供される開発プロジェクトの計画と実施について、障害のある人およびその代表団体との開かれた直接協議プロセスを設立すべきである。施設にいる障害のある人、脱施設者をこのプロセスに参加させなければならない。市民団体が、障害のある人が自立して生活する権利や地域に含まれることについての認識を欠いている場合、市民社会の強化の一環として、国際協力によって協議プロセスが支援されるべきである。


141.締約国は、すべての国際協力の取り組みにおいて、障害のある人の権利をメインストリーム化すべきである。2030アジェンダ(訳注 2016年~2030年の国際社会共通の目標(SDGs)のための行動計画、スケジュールなど。「国連持続可能な開発サミット」2015年において採択。)と持続可能な開発目標(SDGs)を実施するためのすべての措置が、脱施設化を支援することを確実にする必要がある。国際協力は、地域に密着した支援とサービスの提供を長期的には支援できないことを考慮し、締約国は、新たに創設するサービスの運営を継続し、脱施設化のプロセスを完了するよう計画しなければならない。


142. 地域の団体は、国際協力の一環として、脱施設化プロセスの推進に重要な役割を果たすことができる。国、地域団体および国際団体の障害者中央連絡先(Disability focal points)は、障害のある人とその代表団体と、また施設にいる人や脱施設者と密接に協力する必要がある。地域の統合機関(Regional integration organizations)は、条約を遵守するために締約国と同じ責任を負っており、透明性と説明責任確保のための仕組みを設置しなければならない。


143.脱施設化を支援する取組みの国際的な調整は、障害の医学モデルの手法や強制的な精神保健法を推進するなどの、悪い実践が繰り返されることを防ぐために重要である。締約国は、障害のある人(特に脱施設者)の代表団と緊密に協議し、脱施設化に関する優れた実践のための国際的なプラットフォームの設立を検討するべきである。締約国は、適切な旅行指針を提供し、条約の周知と、施設収容の危険性についての認識を高めることによって、外国人観光客による施設でのボランティア活動(「ボランツーリズム」と言われる 訳注 ボランティアと観光を兼ねた旅行)を防止すべきである。


訳: 尾上裕亮、岡本明、佐藤久夫

×

非ログインユーザーとして返信する