~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

医療の透明性を高め質を向上する制度

gigiegugu

ベルギーとの比較から、日本の精神医療保健福祉の法制度実践について


~ 医療の透明性と患者の自律を担保する権利保障制度 ~


人権侵害が起きないために基礎となるのは透明性であろう。ここでは精神医療の透明性を高めていると思われるベルギーの権利保障制度や人権を監視する仕組みを取り上げ、日本の現状を考える上での参考としたい。


1) 人権委員会「機会の平等と差別撤廃のための地域間連携センター」Unia 

障害、年齢、性的嗜好、宗教、出自などあらゆる領域の差別を扱う、6つの部門からなる独立人権監視機関の一つである。サービスの改善を図るため社会生活に伴うあらゆる苦情を聞き、アンケート調査 、担当機関への助言、公衆の意識づけを行い、司法的権限はないが訴訟を代表する事もあり、今も知的障害者の排除に関して訴訟中。


2) 措置入院

1990年、措置入院の条件と手続きを厳格に定める。9割は警察を介した措置入院である。手続きは2025年に大幅な改正 があった。


⑴ 措置入院の際の患者の権利

① 入院の理由と「患者の権利」を知る

② 不服申し立て

③ 弁護士の同席を求める

④ 精神疾患に応じた適切なケアを受ける

(※ 2024.5改正により本人のカルテ開示請求権、同意、選択権が保障された。)


⑵ 措置入院の条件

① 精神疾患を有することが、遡る24時間以内に証明されている。

② 裁判官により、自傷他害の惧れがあると判断される。(必要に応じ現場確認)

③他の方法を探したが見つからない。


⑶ 手続き

① 裁判所への召喚、本人聞き取りと確認。SW、医療関係者、弁護士、判事、本人の望む親しい人等を交え、入院以外の可能性を探る。

② 病院で精神科診断を行い、24時間以内に裁判所に届ける。

③ 10日以内に、治療終了予定日を決定し裁判官に通知。最長40日。延長の場合は最初から手続きを踏む。以後2年毎。(実質無期限可) 

④ 弁護士を通じ、治療経過を裁判官に報告


2025年改正

① 通報の時点で弁護士がつく。

②精神科医を選びセカンドオピニオンが可能。

③48時間まで見守りのみの評価観察の時間を取ることができる。

④『条件を満たす場合の本人同意治療』

回復して家族や信頼する人、関係者とよく話し合い、条件を満たし、治療に本人が同意する場合、判定医とよく話し合い、ⓐ入院、ⓑ通院、ⓒモバイルケアによる在宅入院から選ぶ。

非同意の場合は、

㋐見守りのみの入院、㋑入院して強制治療、

を判事が決定し、プランを作成する。


入院の場合は、人権擁護機関との連絡を取ることが保障される。



3) 医療監査 

⑴ 手順と種別

人員、設備、組織、カルテの適正管理等監査項目をチェック、職員への聞取りを行う。有害事象を回避するため、また、データの蓄積が良質な医療の発展に寄与するため、医療行為や薬の使用も行政監査の対象としカルテレビューが行われる。匿名カルテにより治療過程、薬剤の適正使用、副作用について処方箋と突き合わせ、在庫確認を行う。問題があれば専門官が審査する 。

監査は行政地域圏毎に保健局が行う。①安全と品質管理のため数年毎に行う定期監査、➁患者からの苦情、医療事故の報告、特定の通報に対し行う抜打ち監査、➂重大な医療事故などに対応する詳細な点検を伴うテーマ別監査があり、所見と改善に向けた助言を付し報告書を作成、結果を公表。改善勧告、命令に対し計画書を提出。改善がない場合は罰金、部分的業務停止、重大な違反には閉院などの制裁を科す。年次報告を公開する。

身体拘束等は欧州拷問等防止委員会の抜打ち監査の対象であるが、人員不足により起こりがちな心理ハラスメントの発見は難しい。

⑵ 地域毎の特色

フランドル  

医療の質が高く、健康データベース管理、監査技法が進み、衛生、機器の安全性に厳格で、薬品管理、院内感染などテーマ別抜打ち監査、研修によるリスク回避、予防に重点が置かれ、是正措置は段階的である。

利用者のために透明性を重視し評価結果は全て閲覧可能とし、 高い基準を満した病院は優良施設認定が受けられる。

ワロニー 

医療と地域の健康、社会的サービス全般を担当する「生活の質向上委員会」AviQが、地域ケアを含む総合的な視点から監査を行う。患者、市民団体が参加して一般的な監査項目を吟味する。脆弱な人々の医療アクセスと包摂を重視し、必要に応じ個別ケアへの助言が受けられる。

勧告を受けた医療機関に対して改善に重点を置き、評価結果は継続的な助言、支援、ケアの向上に役立てる。

首都ブリュッセル 

フランス系とオランダ系のコミュニティ毎に行われるが、公平なアクセスのため監査、報告、評価は全て2か国語で行う。人口密度が高く関係が複雑なため病院、施設が多様で、機関連携の必要性から病院間のコーディネートや救急対応なども監査の対象とし、是正措置、行政罰も複雑な状況に対応する。


4 ) 医療事故基金FAM 

医療事故基金FAMは、重大な医療事故被害者を公平迅速に補償するための国の基金。2010年、長い市民運動と医療者側からの要請、議会での議論の末に生まれた。実施に当たり、エビデンスを基に医療、司法の専門家、患者会の意見聴取を重ね、関係者と国民への周知を行った。2012年からは過失の無い医療事故にも対応する。

25%以上の健康喪失、職業継続が不可能となる重大で継続的な疾病障害に対して補償され、医療機関、医療従事者はFAMの損害賠償を補完する職業賠償責任保険への加入義務がある。

被害が疑われる場合、FAMに損害の証拠を添えて申請し、補償決定を受諾すると基金から補償が支払われる。決定、補償額が不服の場合は民事訴訟へ。予め病院が調停を進め衝突を避けることもある。

申請により専門的な調査、補償、和解に至ることで双方にとって負担と損失を防げる反面、複雑な証拠提出を必要とし、軽い損失に対しては無効、認定されない、補償額が不十分等の不満が残る。認定されない場合法廷で再度手続きが必要となる。


5 )  憲法裁判所 

 全ての公的権力は憲法を守り尊重する義務を負う。憲法裁判所は法律の違憲性を直接審査請求する制度である。国会代表(場合により市民)、法務局、各行政府代表の発議により、国民の権利と自由を守るという観点から憲法と法の整合性を検証する。法の違憲性を認めた時点でその効力が停止され、法は施行時に遡及して削除可能である。国、地方、地域の間の権力間対立にも介入する。


6) 日本の精神医療保健福祉の法制度実践について

 日本の措置入院、医療保護入院では明確な患者の権利法や司法介入がないため、現場に多大な責任が生じる。また、刑法、少年法にある領事関係条約36条による通報義務が、精神保健福祉法には規定されないため、医療保護入院を正当化する法律が存在しないベルギーとの間に国際条約上の不整合が生じると考えられる。

監査については2023年、第三者評価に医療の内容を監査するカルテレビューが加わった。目的はサービスの質を保障することであり任意受審である。滝山病院事件では調査報告書にも不適切医療行為には触れていない。また、コロナワクチン、HIV感染症等による健康被害等に関しては救済制度があり、審査、補償が行われる。精神科で起きやすい医療事故については審査、補償制度があれば、被害者、医療側共に更なる負担を避けることができるだろう。

現在、法の違憲性を問うためには、その法律により既に被害を受けたと考える人が国や都道府県を相手に賠償請求し、同時に違憲性を問う。憲法裁判所では直接、法律を問うことができる。

一見調和して見える日本の社会秩序は、実は多くの忍耐に支えられたものであり、その中で、強制入院に伴う人権侵害や医療事故が見過ごされてきたように思う。上記の制度はそれらに光を当て、透明性を高める仕組みと言えるだろう。


おわりに

ベルギーではモバイルケアの普及により、措置入院にも本人意思を尊重して在宅ケアの選択が可能になった。人権保障を土台に進められた地域精神保健改革により、更に人権保障が進む。両者は共に進化する関係にあると言える。改革の成功の背景にあるのは何よりもヒューマニズムと基本的人権の尊重であり、「人としてその理性や知性が信頼される」とする姿勢である。

2018年、日本からも伊勢田氏を始めとする医療者、PSW、家族らが現地を視察し、医療、財政、政治、理念、地域精神保健 について報告している。2024年の視察では当事者からの報告 もあり、今後の継続的な視察報告が待たれる。

今日の複雑な社会の中で心の不調は誰にでも起こり得る。リカバリーを目標として、患者の自治を尊重し、主体性と責任を重んじる文化の中で、より人間的で質の高いケアが期待できるだろう。


参考文献

インターネット検索2024.11.30

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