~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

アウトリーチへの移行を支える本人意思の尊重と権利保障

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中村佳世 (窓風の集い)ディプロマWHO協力センターDIU『地域精神保健』

アウトリーチへの移行を支える

本人意思の尊重と権利保障

《研究目的》

 ベルギーの精神保健改革では、利用者の経験知、意見、本人意思が尊重されたと言われます。改革の背景にある利用者の権利、市民の安心の礎である医療の透明性の確保など、改革成功の基礎となった文化的な土壌を理解したいと思います。

《研究方法》

 主として公的機関の資料を中心に、可能な限り一次資料に基づき、インターネット上の文献を通じて、患者の権利と人権機関、措置入院の条件とその手続きについて、本人意思の尊重がどのように行われるのかを調べます。また、医療の透明性を確保するのに寄与すると思われる医療監査制度、医療事故への対応について調べます。

《結果》

【権利保障制度構築の歴史的な流れ】

 1990年に措置入院の条件と手続きが定められます。ベルギーの措置入院では、治療を拒否することが可能です。アウトリーチの普及により、2025年には措置入院に通院と在宅モバイルケアを選択することが可能になりました。

 次いで、2002年には安楽死、2003年には同性婚が法制化されます。このように、改革の背景に本人意思の尊重する土壌があることがわかります。

 患者の権利も2002年, 2004年, 2024年と制定、改定が重ねられ、2007年には、差別禁止法の制定に伴い、Unia (機会の平等と差別撤廃のための人権委員会)が正式な人権機関となります。

 2010年には、医療事故基金が制定され、調査と補償は国の責任となり、訴訟が極力回避できるようになりました。また、匿名カルテによる医療監査も医療の透明化に役立つのみならず、データの蓄積が標準医療の水準向上に貢献しています。

【アウトリーチ】

 私たちが『安心して」リカバリーできる事は何よりも重要です。自分が選んだ、自分にとって安全な場所でケアを受け、主体的にリカバリーするために、多様なインクルーシブ住宅、一般住宅が用意され、アウトリーチへの移行を進めました。


【医療の透明性と第三者の介入】

殆どの国で措置入院制度があり司法介入があります。逆に 個人の訴訟を回避できる制度として、人権機関による病院での利用者の権利保障、医療監査(医療の内容、行為を含む)、医療事故の歳の調査補償制度があります。

また、制度や法そのものを吟味する憲法裁判所があります。

【措置入院の際に守られる権利】

措置入院においては、患者の権利(2002年に明文化され改正を重ねた)が確実に守られることが市民の安心のためには欠かせません。

2024年には、できる限り不要な措置入院を回避してトラウマとスティグマを軽減し、本人の暮らしと主体的なケアを尊重するために、大幅な法改正がありました。


⑴ 措置入院の要件

 1990年に定められた要件は、①精神疾患が認められること、②自傷他害のおそれがあること、③他の方法を探しても見つからないこと、でした。

 2024年法改正により、④通報時点で弁護士の準備があり不服申し立てが可能であること、⑤心身の状態に応じた適切で可能なケアが用意できること、⑥治療への同意の有無が明記されること、⑦判定責任医の他に、医長による評価が一致していること、が加わりました。

また、この時に、本人によるカルテ開示請求権、同意、選択権、セカンドオピニオンを求める権利が保障されました。

なお、強制入院の場合でも治療を拒否することができるため、多くは見守り(観察)のみの措置入院となっていましたが、48時間まで、見守りのみで評価観察する期間をおくことが可能になりました。この間に回復して心身の状態がよければ、関係者と相談の上、本人が治療方針に従えると判断した場合には『条件下での同意治療』呼ばれる措置が可能になり、施設、通院、在宅などから可能な治療プランを選択できるようになりました。治療を拒む場合は判事が本人との面談の上、①開放、②治療せず措置入院、③施設外同意治療のうちから選び決定します。施設内(病院等)措置となった場合には、権利侵害について相談できる公的人権機関が苦情相談を受けます。これらの条件をひとつでも欠くときには強制措置は終了となります。


訴訟を避けることは、利用者、医療者双方にとって負担の軽減になります。以下2つの制度は訴訟を避けると同時に医療内容の透明化も期待できるものです。

【医療内容の監査】

 診療報酬のチェックのみではなく、医療内容、薬剤の在庫、効果と副作用など調べる医療行為を監査します。

欧米では匿名カルテによるデータを蓄積により、より効果的で質の高い標準治療を見出すことに役立てています。

 2023年より、日本では第三者評価にカルテレビューが加わりました。これは医療機関の信頼性を評価するため任意で審査(有料)が行われるもので目的を異にしています。これが普及することにより、医療全体の質や信憑性、透明性が高まることが期待されます。故意の事故も起こりにくくなるでしょう。

【医療事故基金】

 2010年に医療事故基金という制度ができました。医療事故により職業の継続が不可能になったり、25%以上の健康損失を受けたと思われる場合、申請により国が調査機関が調査し、過失がある場合には基金が補償立替え、医療機関に補償を促します。過失が無い場合には全額、国が補償することになりました。

 隣のフランスでは2002年に無過失の場合は国から補償が受けられるクシュナー法が生まれています。過失がある場合には調査委員会から医療機関に連絡がいくため逃れにくくなっています。健康損失については、細かく区分されています。

 日本ではコロナワンチンなどによる健康損失について補償が行われていますが、精神科での医療事故については訴訟によるのが基本です。


《考察》

 日本は医療への信頼が厚く、その信頼の上に精神医療が行われてきました。そのためか上に示したような制度は不足しており、多くは利用者の忍耐に依存していると言えるでしょう。

 社会も目まぐるしく変化する中、信頼と忍耐をだけでは解決しない問題が多く存在することも分かってきました。精神医療における虐待、過剰医療、死亡退院などによる患者や家族の傷つきに対する心のケアや、権利保障に関する研究は十分とはいえません。

 本研究で、利用者のリカバリーを支える基礎となる権利を保障する多くの制度が工夫されていることがわかりました。措置入院に於いてもできる限り強制性と自由の制限によるストレスを減らし、医療監査は医療の適正化と質向上に寄与し、医療事故基金によって係争によるストレスが軽減されます。その変遷に一人ひとりの自由と意思を尊重し、それを守ることに真剣に取り組む誠実さを感じます。

 既に日本でも提案されている抜打ち監査や医療保護入院の廃止、罰則の強化に加えて、上記の制度により医療はより可視化され、滝山病院のような事件が早期に発見でき、虐待や不適切医療による死亡事故を未然に防ぎ、より安全で質の高い地域精神医療が期待できるでしょう。

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