~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

『患者の権利』のための基本的人権 日本国憲法

医療基本法『患者の権利』を考えるに当たり、日本国憲法に定められた基本的人権をおさらいしておきます。


主権とは、国の進む方向を決める権利と責任を有する主体のことです。
第二次世界大戦以前は日本の主権は天皇にあり、その責任は天皇が負う仕組みでした。敗戦後アメリカの主権介入を経て、1947年に日本国憲法が制定されると、主権は国民にあるとされ、責任を国民自らが負う仕組みになりました。この主権の譲渡が日本国憲法の一番の要です。
2番目は国民の権利がそれまで条件付きであったものが、絶対的なものとして宣言されたこと、すなわち国民の基本的人権を認めたことです。現在では外国人も準ずるとされています。
基本的人権は憲法第3章にあり「平等権」、「自由権」、「社会権」、「参政権」、「請求権」から成ります。


第14条 「平等権」すべて国民は、法の下に平等(法のもとではすべての人が平等であり差別を受けないこと)であり、①人種、②信条(宗教信仰や政治思想)、③ 社会的身分(生まれによって決定される人の地位)④ 門地(家柄)により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
この原則に基づいて男女共同参画社会基本法や、障害者差別解消法が成立しています。


「自由権」は、国家からの不当な干渉や妨害から個人の自由を保障する権利で、「精神の自由」、「生命・身体の自由」、「経済活動の自由」の3つがあり、心の中で考えることやそれを外部に表現することを保障しています。
第19条 思想・良心の自由(個人の主張は内心にとどまる限り処罰されないこと)
第20条 信教の自由(宗教を信仰する権利・宗教を信仰しない権利)
第21条 表現の自由(集会や出版を通して自由に自己を表現できる権利)
第22条 居住・移転・職業選択の自由(公共の福祉に反しない限り、居住・移転・職業選択は自由)
第23条 学問の自由(学問や研究を行う権利)
第29条 財産権の保障(公共の福祉に反しない限り、財産権を保障)
罪を犯した(かもしれない)人には、法律によって定められた手続きをとらなければ刑罰を科せられません。裁判所の令状(逮捕状)がなければ逮捕できないこと、取り調べのときに拷問を禁止するなど、生命・人体の自由が保障されています。
 また、経済活動の自由によって、自分で選んだ仕事をし、好きな場所に住み、自分の意思で契約したり、財産を所有したりすることを保障しています。
(日本では精神障害者に対して移動の自由を奪う現行の医療保護入院および措置入院に司法による審査がなく、第22条が構造的に軽視されていることが問題視されています。)


「社会権」は人間らしい生活を求める権利です。
第25条 生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)
第26条 教育を受ける権利(能力に応じて等しく教育を受けられる)
第27条 勤労の権利(すべての人に働く機会を与える)
第28条 労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)
第25条に基づき「生活保護法」が制定され、収入が少なく、最低限度の生活を営むことができない人に生活費などを給付する制度があるが、その運用にあたって憲法とは相いれない価値観が支配することが近年問題となっている。


これらの基本的人権を守るためにあるのが「参政権」と「請求権」です。
「参政権」は政治に参加する権利で、
第15条 選挙権(国会議員、地方議員、首長を選ぶ権利)
第44条 被選挙権(国会議員、地方議員、首長に立候補できる権利)
第79条 最高裁判所裁判官の国民審査(裁判所のはたらきを監督する)
第96条 憲法改正の国民投票(憲法改正の是非を問う権利)
が明記され、国民主権に基づいて、選挙を通じて政治に参加できるだけではなく、国民が自ら重要なことを決定することが保障されています。


「請求権」は、人権が侵害されたときに、その救済を保障される権利です。
第17条 国家賠償請求権(公務員の不正行為によって損害を受けたとき、国や地方自治体に損害賠償を求めることができる)
第32条 裁判を受ける権利(自分の権利が侵害されたとき、裁判所で公正な裁判を受けることができる)
第40条 刑事補償請求権(裁判で無罪になった人が国に補償を求めることができる)
逮捕された後に、裁判で有罪か無罪か正しい判断を受けることができ、「えん罪」によって逮捕されたときは、自由を制限されていた期間の補償がされます。


第17条 国家賠償請求権を行使した例として、ハンセン氏病の裁判、優生保護法裁判などで原告側が勝訴している例が見られる他、2021年には精神障害の分野でも伊藤時男さんが、国に社会的長期入院の責任を問う裁判を起こしています。
近年ではこれらに加え、基本的人権を全うするための環境権、知る権利、プライバシーの権利、自己決定権など、新しい人権が考えられています。特に患者の権利としてリスボン宣言がだされるなど、障害者福祉においてこれらの考え方は特に重要になってきており、それに伴い日本でも医療基本法の制定などが叫ばれるようになってきました。
村木厚子さんの長期間拘留の例にもみられるように、推定無罪の原則が守られない例や、取り調べに弁護士が同席しないケース、またえん罪も多いなど、日本の司法制度には偏りや欠陥が見られることが有識者の間では問題視されています。
基本的人権という考え方が西洋の文化や習慣、考え方、とりわけ自ら権利を求める血を流す運動により生まれた歴史的な背景があることから、運用上日本にある文化習慣とは混ざりにくいという問題が生じやすい。また、既得権益などが忖度されること、自己犠牲の美化など、自己の基本的人権を実感しにくい現状がある中で、障害者福祉では特に意識的に実践していかなければならない場でもある。
西洋では何かをすることによって生きる権利が得られるのではなく、生まれたときから基本的な生きる権利が保証されていると考えます。基本的人権とは先天的に天から与えられたものではなく、「これを守っていこう !」というその社会の決意を憲法に書いたものです。




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