~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

ピアによるクライシスホステル

松田博幸さん(大阪公立大学)のfb投稿からシェアさせて頂きます。


『ピアによるクライシスホステル』
アメリカでは、「ピアラン・レスパイト」(peer-run respite)、「ピア・レスパイト」(peer respite)と呼ばれる、クライシス(心の調子が崩れてどうしようもない状態)にある人が短期間(数日から1週間くらい)滞在し、落ち着けば自宅に戻る、当事者運営の場が展開されています。そういった場があることで精神科病院への入院を回避することができます。


そういったピアラン・レスパイトはアメリカの精神障害当事者運動の重要な成果で、そういった成果からとても大切な考えを学ぶことができると思っています。


2014年にアメリカのコネティカット州でMindFreedom Internationalの大会が開かれ、それに参加したのですが、クリス・ハンセン(Chris Hansen)さんが座長を務めた分科会において「ピア・レスパイト憲章」が作られ、最終日の全体会で発表されました(内容は『おりふれ通信』2014年10月号参照)。その後さらに手が加えられ、それを発展させたものが示されていますので、紹介します。
Peer Respite Handbook
それぞれの項目についての解説も述べられていますので、関心のあるかたはそちらをあたってみてください(以下からダウンロードできます)。
https://www.peerrespite.com/manuals


ピア・レスパイトが3つに類型化されて
「完全なピア・レスパイト」
「混成的なピア・レスパイト」
「ピアが統合されたレスパイト」)
それぞれの特徴が述べられています
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ピア・レスパイト憲章 (The Peer Respite Charter)

第1条:すべてのピア・レスパイトの特徴

(Section I: Characteristics of All Peer Respites)


1. リーダーシップをとる人たちを含めて、レスパイトにおいて給与を受けているすべての人たちは、生活が中断されるような情動的苦痛やその他の生活上の重大な困難のパーソナルな体験をもっていると自認している。そして、仕事の一部として、その体験のなかから他の人たちと進んでわかちあう。


2. レスパイトの哲学は、クライシスは学びの機会になりうるという考えに根差している。


3. アセスメントや危険よりも、価値基準や人としての責任(personal responsibility)が強調される。


4. レスパイトの哲学は、自己決定、相互性、癒しと成長はすべての人たちにとって可能であるという考え、といったことを大切にする価値基準に根差している。


5. レスパイトの内容やアプローチは、トラウマの影響に気づくことに根差している。その場合のトラウマには、人種、ジェンダー、性的指向などに関係する社会制度的な抑圧によるものが含まれる。また、レスパイトの内容やアプローチは、そういったことを再び生じさせることない、癒しやアクセス可能な空間を創り出す実践に根差している。


6. 「疾患」というものは想定されず、苦痛や、普通ではないあるいは困難なさまざまな体験に意味を見出す、幅広い多様な方法が歓迎され、オープンに話し合われる。


7. 個人について習慣的に記録される書類作成業務は最小にする。また、そういった業務がおこなわれるのであれば、支援を求めている本人主導でおこなわれる。


8. レスパイトで働くあるいはボランティアをする人たちは(トレーニング、チームワーク、共同でのリフレクションなどによって)サポートされ、ピアとピアの視点(peer-to-peer perspective)を身につける。


9. レスパイトで働くあるいはボランティアをする人たちが使う言語、そして、文書において使われる言語は、非臨床的で(non-clinical)日常的な言語である。それは包括的であり、多様な視点を受け入れる余地を残している言語である。


10. 習慣的に精神医学的診断に焦点をあてるということはしない。特定の人あるいは会話にとって意味がある場合にのみ話題にされる。


11. どんなよくなる方法についても、あるいは、すべてのよくなる方法について、オープンに話し合う。どんな人にとっても、一つの方法(たとえば、精神科治療薬)のみが正しい、あるいは、間違っているとは考えない。


12. レスパイトに滞在している人たちは、自分がつながりたいと思うところの、選ばれた家族(chosen family)、友人、支援者とつながり続けたり、新たにつながるよう、サポートされる。


13. レスパイトに来るのも、レスパイトから出ていくのも自由であり、制約はない。ただし、レスパイトをどのくらい空けていれば居場所を失うのかについては、例外的に制約がある。


14. 集団のスケジュールや起床・就寝時間などを求められることはない。レスパイトに滞在している人たちは、自分が主導権を握って、自分にもっとも助けになるように、自分の滞在の内容を計画する。


15. しばしば「症状」と呼ばれるもの(たとえば自傷行為など)は、困難な生活体験に対処しようとしたり、適応しようとしたりする際の一つの方法である。


16. 強制力の行使(本人の意思に反して救急サービスや警察を呼ぶ、など)を避けるということはもっとも優先順位が高いことがらである。もし強制力が行使された場合、内部で事実を振り返り、学ぶ過程が実行される。


17. 人びとのことをその人がいないところで話さないということが強調される。承諾書(release)が合法的に署名され、レスパイトで働く者がそういったことをすることが可能である場合であっても。


18. 薬の管理やお金の管理といった、力の不均衡を生み出したり、強化するような業務は避ける。


19. 「スタッフ以外立ち入り禁止」エリアは最小限のものにされるか、あるいは、まったくない。


第2条:完全なピア運営のレスパイトの特徴
(Section II: Characteristics of Fully Peer-Run Respites)


 「完全なピア・レスパイト」であるためには、第1条で挙げられているようなピア・レスパイトの特徴のすべてに加えて、以下の点を満たしていないといけない。


1. 独立して活動している、あるいは、非臨床的な組織の一部として活動している。


2. 家、アパート、あるいは、他の居住空間にある。医療的な建物や、レスパイトのミッションに合わないような臨床的目的あるいは他の目的で併用される建物にあるのではない。


3. 組織の理事会やその他の諮問委員会の構成については、精神医学的診断、トラウマ、アディクション、ホームレス、その他の生活上の重大な困難といった個人的な体験をもつ人たちが多数派となっている。


4. レスパイトにアクセスするのに他の特定のサービスを受けていないといけない(精神保健局を通して特定の機関でサービスを受けていないといけない、など)ということはない。


5. レスパイトにアクセスするのに、たとえば、臨床的なアセスメントなど、臨床家によるフォーマルな関わりは要らない。


第3条:混成的なピア・レスパイトの特徴(Section III: Characteristics of Hybrid Peer Respites)


 混成的なピア・レスパイトは第1条で示されたすべての性質と特徴をもっているが、第2条で示された特徴のうちの1つあるいはそれ以上を満たしていない。


第4条:ピアが統合されたレスパイトの特徴(Section IV: Characteristics of Peer-Integrated Respites)


 厳密に言えば、ピアが統合されたレスパイトは「ピア・レスパイト」ではない。しかしながら、それは、次のようなことがら以外については、第1条におけるすべての性質を満たしている。
 レスパイトで働いている人たちのほとんどが、精神医学的診断、トラウマなどの個人的な体験をもっていることを自認し、オープンにしているが、リーダーシップ的役割にある人たちは(そして、もしかすると他の人たちも)、個人的な体験をもっていること、そして、それをわかちあうことを業務上は求められていない。

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