~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

退院審査、ドキュメンタリー映画『12日』学習上映会

【退院審査1】19:00-19:40
ザイード男性 20歳 判事 : 男性 60歳くらい
判事   あなたはベルノック・ザイードさんですね。
ザイード はい、そうです。
判事   1995年8月29日生まれ、四日後に入院6か月になりますので、現在状況について再審査が必要です。
ザイード 僕は間違えました。
判事   え、何と ?
ザイード 間違いを犯しました。間違ったんです。5月14日にある間違いを警察に知らせたんです。警察に電話をしました。午前3時でした。
判事   それで ? 何があったんですか ?
ザイード うちから電話したんです。警察を呼んだのは、うちの隣でセクトの集会をしていたからです。
判事   お隣でセクトの集会? どんな集会をしていたんですか ?
ザイード イスラム教徒の集会です。
判事   イスラム教徒の、なるほど。
ザイード イスラム教徒というよりイスラム過激派です。
判事   イスラム過激派、つまりあなたのお隣がテロリストということ。
ザイード テロリストです。そうです、テロリストなんです!
判事   わかりました。
ザイード 証拠があるんです。地下倉庫に行ったら、そこで、そこで、地下倉庫で、カラシニコフを見つけたんです。それで、それを掴んで、そんなもので間違いが起こったら大変だから掴んで。。
判事   それで、そのカラシニコフを何処にしまったんですか ?
ザイード 引き出しの一番上にしまいした。おばあちゃんが届かないところに。
判事   なるほど。それで、最近の診断書ですけど、いいですか、こんな内容です。
あなたの行動は重度かつ執拗な狂信的な統合性失調症、難治的併発多重依存症により起こす行動の混乱が激しい、そのために入院を承認されました。
ということは、想像するに前から大麻をやってたんではないか思うんだが。あなたは何を使ってたのかね、薬としては ?
ザイード 大麻とコカインです。
判事   それだ。コカインだ。刃物などで介護士に何度も危害を加える話が記録されてますよ。それから、君は未成年だった頃に前科がいくつか記録されてます。まだ君は若いから、、まだ二十歳なんですね。
ザイード 21歳てす。
判事   まだ21にはなってないよ。君は96年の8月生まれだから今20歳と半年。まだ20歳と半年になったばかりだ。
だから、医療チームは、国の決定に基づいて精神科の治療が必要と判断して、引き続きその必要があるといってます。あなたご自身はどうお考えですか ?
ザイード それは正しいと思います。最後の言葉を言いたいと思います。
判事   あなたはあと1か月いたいと言ってるのですね。そして1か月後に退院をと。あなたの希望はそれでいいですか ?
ザイード いいえ、そうじゃありません。
判事   じゃあ、何を言いたいのですか ?
弁護士  彼は最後の言葉を言いたいと言ったかと思います、判事さん。
判事   ああ、最後の言葉、ごめんなさい。何をおっしゃりたいのですか ? (mois とmotの聞き違い)
ザイード 僕はちょうど悪い時に悪い場所を通りかかったんだ。それで、運よく、運よくこのカラシが僕の手に入った。僕は金の卵なんだ。僕は鼻からカラシの子なんだ。。僕は正直だ。カラシは役に立つだろう。絶対に、カラシは役に立つ。でも、でも、悪いやつらをやっつけるのに、やつら(イスラム過激派)はきたないんだ。侮辱してやる、こう言って。。
判事   いや、侮辱することは言わない方がいい。その方が。。
ザイード 奴らみたいなのは間抜けでイスラムなんか信じて、人のうちに強盗に入って、それは僕らの2つの国の戦争だ !
判事   いいでしょう。入院についてはどう思いますか ? 続けたほうがいいですか、それとも終わりにした方がいいと思いますか ?
ザイード 自分では終わりにしたいと思います。
判事   あなたの希望は終わりにしたいということですね、それでそれは可能ですか ? いい質問でしょう?
ザイード すみません。
判事   では、先生、あなたのご意見は ?
弁護士  はい、判事さん。実際、彼はこの強制入院があまり気には入ってません。ですが、同時に治療が今のところ役立っているとも示唆しています。実際その認識があり、治療がかれには必要だと。しかし、本当のところ難しいのはその入院の形態についてで、異議を述べています。
判事   心地よくないと。
弁護士  (はい、と身振りで)
判事   わかりました。今日のところは引き続き治療を承認することにしました。あなたも静かなところに隔離されてだいぶ穏やかになりましたから、今後はよくなっていくことでしょう。でも引き続き。。
ザイード そのとおりです。僕はキチガイなんだ。
判事   そうは言ってません。私が言ってるのは
ザイード 僕は1080足す20がいくつになるかわかりません。
判事   1080足す20はきっかり1100だよ。で、その数字は何なの ?
ザイード 僕は2000だと思ったんです。
判事   いや、1080足す20は1100だ。でもそんなこと言ってるんじゃない。それができないから、足し算ができないからじゃあない。
ザイード 僕が知的じゃないから。。
判事   そういうことじゃない。。
ザイード 僕は精神病なんだ、ひどい精神病なんだ。
判事   違います。あなたは治療が必要なんです。まだ混乱があるからもう少し入院が必要だね。
ザイード 僕はきちがいだ。僕は人として精神が狂気なんだ。劣った精神なんだ。生まれつき劣っているんだ。
判事   じゃ、いいですね、よかったら、ここにサインしてください。
弁護士  ここだよ。
ザイード あの。。あんまり好きじゃないものがあるんですが。。小さな緑色の枡がなくて。
判事   小さな緑色の枡って ?
ザイード 小さな緑色の枡で印をつけるやつ。
判事   何のこと ?
(沈黙)
ザイード ええ、そう。
判事   何のことを言っているのかわからないが。
ザイード 僕もよくわからないけど。小さい枡で、ご滞在はいかがでしたか ?って訊くあれ。
判事   ああ、そう、満足度チェック表のことですね。待遇はいかがでしたか?とか。そういうものではありませんよ。
ザイード 。。。
弁護士  ありがとうございます。
判事   はい、これで今日は終わりです。あなたはまだもう少しここの施設にいることになります。治療のために。いいですね ?
ザイード はい。
判事   はいどうぞ。よい1日をお過ごしくださいね。
ザイード はい、ありがとうございます。
判事   しっかり治しなさい。
ザイード ありがとうございます。ご恩返しは必ず。もし、いつかプロのサッカー選手になった暁には、この病院に寄付します。
判事   わかりました。みんな待ってるから。
ザイード だとうれしいです。
弁護士  わかったよ。
判事   その決意を忘れないように。
ザイート はい。
判事   そう、じゃあさようなら。
ザイード さようなら。
弁護士  さあ、行こう。さようなら、判事さん。
【退院審査2】
No 7 ヌオーリ 男性 34歳, 判事 : 男性 60歳くらい, 弁護士 女性 40歳くらい
判事   こんにちは。ヌオーリさん。
ヌオーリ こんにちは。
判事   どうぞおかけください。いいですね。あなたには以前お会いしてますね。私は裁判所の判事です。あなたはマイアンベ ・ヌオーリさんですね。
ヌオーリ そのとおりです。
判事   ですね。あなたは82年の3月13日アンゴラのルワンダで生まれました。あなたはアンゴラ人ですね。
ヌオーリ そうです。
判事   つまり、もちろん、だからそこに居られないんですね。何年も路上生活をしていたんですね。そして。。
ヌオーリ 刑務所に入れられました。
判事   そうですね、あなたは刑務所に入れられていました。それで拘置所に拘留されていたけれども責任能力がないと認められたんですね。というわけでそのあと再審審査室が精神科入院を言い渡したわけですね。
ヌオーリ そうです。全て正しく行われました。心配はありません。8年間法を犯すようなことはしていません。だから、僕が他の人みたいに外出するのをどうして許可してもらえないのか理解できません。
判事   はい、でも、そうですね、分かります。
ヌオーリ 病院から出て、というのは病院ではもう何もすることがないから、仕事を探したいんです。
判事   あなたは、法律で規定しているとおり、うちの書記あなたの件について審問を依頼したんですね。強制入院を終わりにできるかどうか。さて、おっしゃってくださいね、その点についてあなたの状況を明らかにしたいと思います。今どの棟にいらっしゃいますか ?
ヌオーリ キャンディレです。
判事   はい、その通りですね。以前あなたは難病棟UMDにいたことがありましたね。
ヌオーリ そうです。
判事   難病棟UMDを出てからどのくらい経ちますか ?
ヌオーリ 4年になります。
判事   4年ですね、確かに。で、今の病棟はいかがですか ?
ヌオーリ とってもうまくいっています。何も言われませんし。詳しく言うと、オディヤー先生が病院から出て、街へ外出する許可をくれたんです。病院から出られる許可をもらったんです。社会復帰の大学に通う承認を貰いました。だから、外に出て、盗んだりみたいな馬鹿なことをしないで落ち着いて暮らせるようにその手続きを進めてくれています。
判事   その通りです。
ヌオーリ 僕は仕事をします。そうすれば自分の欲しいものを自由に自分で買えます。誰にも邪魔されたり煩わされたりしないで、僕も裁判所を煩わせずに。
判事   治療も続けなければいけませんよ。
ヌオーリ もちろんです。
判事   いいですよ。あなたがこれまでしてきたことを繰り返すことはしませんが、あなたの調書はとても分厚いんです。何年にも渡りますから。
ヌオーリ 仕事がなかったからです。仕事をしていなかったから。僕は
判事   そうですが、そのことはではなくて、あなたの過去を語るためにここにいるのではないから。
ヌオーリ お金が なかったんです。
判事   そうですね、なるほど。でもあなたは2008年に13回も女の人に切りかかって殺人未遂とされています。責任能力はないとされましたが、そういうわけで拘置所の後に精神科に強制入院となったわけですから。それは本当に重大な罪です。決して2度としてはいけないことですよ。もちろん、住民の安全のためにですが、あなた自身の益のためにもですよ。だからこそあなたのために、率直に言いますが、注意しているんです。先生もそのために。。
ヌオーリ でも、先生がすべてできるわけではありません。僕がいます。僕自身の秩序があります。法に従わなければならないのは僕です。フランスを尊重しなければならないのは僕です。オディアー先生がフランスを大切にするのではありません。薬を僕に投与する人がすべてを解決できるわけではありません。僕は落ち着く必要がありました。そして今日はとてもとても落ち着いています。AAH(障碍者手当, 月860ユーロ)。それがあれば頭をもっと理性的に働かせることができます。僕は病気になってしまったから。そのせいで誰かを脅したりしたんです。打ちのめされていたんです。住むアパートもなくて。本当にすっからかんだった。ホームレスだったんです。もうどうにもできなくなってぶち切れてしまったんです。
判事   そう、でもそこを言ってるんではなくて、リヨンの精神分析専門の先生が仰るように、ご自分でも病気があることはわかっていますね。
ヌオーリ ああ、でも誰でもいくらかそうですよ。
判事   まあ、いいでしょう。ラビー先生は「重度の妄想型統合失調」と言ってますから気を付けてくださいね。怖がらせるために言うのではありません。よい治療があれば平均的な人として暮らすことができますから。ただ、過去にあなたが出会った問題、犯した間違いが、あなたの病気と関係があって、それが今でも少しあなたには残っているということです。そのことも忘れてはいけませんよ。わかりましたね、ヌオーリさん。
ヌオーリ はい、はい、わかっています。
判事   では弁護士さんのご意見を伺いましょうか。
弁護士  一つ質問があります。質問を許可していただけますか ?  (ヌオーリに向かって)長いこと入院してきたけど、外の治療を受けてみる気はありますか ?
ヌオーリ 僕はその質問に答える前に、知りたいことがあります。なぜ僕らは病気になるのだろう ?
判事   あっ ! (口があいたまま)
ヌオーリ なぜ僕らはみんな統合失調という病気に苦しむんだろう ? それが知りたいんです。
判事   みんなではないでしょう。
ヌオーリ 僕は病気だなんて知らなかったんです。
判事   そのことでは誰もせめてはいないよ。
ヌオーリ 率直に言わせてもらいたいのですが、 僕が知りたいのは、もし治ったらみんな僕になんでも言いたい放題言うのを止めるんだろうか ? って言うのも僕はどちらにせよ弱者でもあるんです。ああそうだ、僕は成功するにはいろいろ困難があった。でもぼくがうまくいかなかったのはそのせいではないんです。大事なのはまだ能力もあって、尊重するべき義務があるということ。法に従わなくてはいけないということ。今なら僕は法律が何なのかを知ってます。何をしなければならないのかが分かります。自分の意識や行動に気づいているし、だからもう二度としません。なぜならこれが僕にくれた最後のチャンスだから。それをしっかり生かさなければいけないんです。それだけです。
判事   その通りです。弁護士さん、どうぞ。
弁護士  ありがとうございます、判事さん。彼の状況に関して診断書で気になるのは二次的な条件と思われる状況や動機についてです。大事なのは今日を確認することであって、刃物で切りつけたとされる8年前ではありません。その事実は彼も否定していませんし、今日の事実を確認すること、現在、彼が今でも人々の安全を危うくする人なのか、公衆に危害を加える可能性があるのかです。簡潔に申しますと、ひとつ考慮に入れていただきたいことがあります。ジュリーという彼の友人がAHHの入居人として社会的住宅を提供してもいいと言ってくれていて、見守ることができるとおっしゃっているんです。私からは以上です。
判事   わかりました。確かに、診断書はあまり詳しく書かれてはいませんね。しかし、ヌオーリさんの調書はとても分厚いので、膨大な過去がありますからね。まじめに理性的な決断を要します。ですから、本日午後、審議の上で決定します。午後には答えがわかりますから。さて、以上です、ヌオーリさん。
全10話対訳はこちらです↓
https://gigi.muragon.com/entry/144.html

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