~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

市民の視点、セルフアドボケイト〜フランスの司法審査〜ドキュメンタリー映画『12日』

2017年暮れ.司法審査制度が実際に実施される現場を描いたドキュメンタリー映画が公開されました。かつてバザーリアから、精神病院の患者の写真を撮ることを依頼されたこともある写真家レイモンド・ドゥパルドンの作品で、リヨンの病院で収録した70名中10名の面談の様子が描かれています。一人ひとりの真剣な対話が感動的です。このドキュメンタリー映画では約5割がまもなく退院したと言われます。
これまで20回ほど日本の当事者や専門職の方と上映学習会を開き意見交換をしてきました。「最低限必要」「聴いてもらえる機会がほしい」「判事が優しい」「なぜ面談なんか受けなければいけないのか?」「弁護士をつけて欲しい」「判事は選べるのか?」「多重支配の怖れは?」などの意見がありました。
(『12日』対訳 : https://gigi.muragon.com/entry/144.html )


フランス市民の平均的な考えを知るには統計が必要になりますが、司法審査について市民がどう感じどう考えるのか、特に精神保健を専門としない4人の市民にドキュメンタリー映画『12日』を見て頂き、個別に意見を伺いました。
A.Cdpさんは、危険なことをした場合にはやはり入院が必要とした上で、この制度の分析と必要性を、B.M.さんは、入院治療は19世紀的なものと感じると口頭で前置きがあった上で制度の矛盾を指摘、A.S.さんは自分が市民として大切にされていると感じるだろう、E.L.さんは強制入院がある限り人権の保障は不可能である事を前提として哲学的な回答をされました。
以下、それぞれの感想です。(括弧内は大学での専攻)


感想1. A.Cdp (政治学、法学)
フランスでは、自由と拘留の専門判事が、本人の同意無く精神科病院へ強制収容する際に重要な役割を負っている。以下に要点を示す
⒈ 強制収容を吟味 : ある人が精神科に本人の同意無く入院させられる時には、判事が聞き取りを行い、その措置を吟味した上で許可を下す。これは、第三者によるか、または他害を理由に知事の要請による緊急の入院の場合である。
⒉ 定期的な審査 : 判事は、その入院過程においてその人の基本的人権が守られていたかを確認する。また、その措置を継続するかどうかの判断を行う。(12日以内に審査、以後半年毎、上告は10日後)
⒊ 面談方式 : 判事は、本人、弁護士、および関係者による面談を行う。精神科医、検察は、診断書および意見書を提出する。目的は公平な議論を交わした上で、同意がなくとも強制入院を続けるかどうかを決定するためである。
⒋ 基本的人権の尊重 : 判事は個人の自由と尊厳を含む入院者の基本的人権が尊重されているか、非人間的で劣悪な扱いをされていないか、を見張る。
⒌ 決定 : 決定に際しては、医療的側面と法的側面の全てを考慮する。


限界
1. 煩雑で時間のかかる手続き : 面談は複雑で時間を要するものであるため決定が遅れ、関係者を傷つける。
2. 事務の量 : 様々なケースが現れるにつれ、判事の仕事が嵩み、仕事の質に影響し決定を急くようになることで、入院者の権利が充分に見盛られなくなる懸念がある。
3. 医療関係者の見解に依存: 判事は医療側の見解を基礎において決定を下す。時には疑問を呈すべき法的判断が、医療側の見解に依存しているのではないかという疑問が浮かぶ。
4. ケースの複雑さ : 人の精神的な状況はしばしば複雑で評価が難しいため、判事の仕事を大変繊細なものにとしている。決定は解釈次第となる傾向があり、強制入院の必要性が妥当なものかを評価するシステムの能力が充分と言えるか、疑問が残る。


制度の利点とポジティブな側面 :
1. 個人の基本的人権を護る : 法的な介入による厳格な権利監視システムにより基本的人権の順守を義務づけることは、不正な強制入院や虐待を予防する効果がある。
2. 法治の独立性 :司法審査の存在により、法の独立性を保つことに寄与すると同時に、入院の必要性を評価する際の公平性を担保する。
3. 面談の機会 : 面談により措置手続きの透明性を高め、本人が自ら証言する機会を保障することで、そのプロセスの正当性を確認できる。


制度の欠点と懸念 :
⒈ 個別ケースの複雑性 : 精神医学的な状況は複雑で評価が難しく、医学的診断書への依存は、平等な法的正義に基づいた判断を下す能力と言う点で疑問が残る。
⒉ 時間のかかる手続き : 判事による面談までの期間が長く、本人の精神衛生にとってマイナスであり、その遅れにより、決定の質が左右されるであろう。(訳者補足:国連勧告:入院から12日以内では遅すぎる。)
⒊ 受け持ちの適性数 : 多くの複雑なケースを受け持つことが、一人ひとりに対する仕事の質を低下させる恐れがあり、制度が適切に機能するためにマネージメントが必要である。


総合的な評価
総じて、司法審査制度は利益相反に介入し均衡を取るために、公平と必要性の原則に拠り個人の権利を保障する試みと言える。判事の役割は、強制入院が最後の手段としてのみ運用されることを確認し、本人の個人的な権利を護ることである。欠点はあるものの、この制度の存在は精神科領域における個人の権利を保障するメカニズムとして必須のものである。しかし、この制度が同時に、社会の側の安全を保障するために行われるため、判断には困難がつきまとう。
制度が適切なものであるためには、現代精神医療の進化と、その欠陥を補う法システム自体の能力に寄るところが大きい。コンスタントに権利擁護を行うためには、人権を監視する効果を高めるための改善が必要であろう。そのためにきより個人の権利に重点を置き、手続きを迅速に行うなど決定がより効果的にできるようにすることである。


審査制度の欠如がもたらす危惧
精神科領域に司法審査が無い場合、個人の人権に関わる様々な危惧が想起される。次に要点を挙げる。
1. 公衆の不安 : 強制入院に倫理的、法的に正当な手続きを欠けば、公衆の信用と安心に影響を与える。
2  権力乱用のリスク : 法的な制御が働かない場合、医療や行政による権力乱用の怖れがある。独立した監視機関や法的な入院審査がない場合、恣意的で不正な決定がされる可能性がある。
3. 個人の権利侵害 : 精神科病院に入院している人は特別に脆弱な存在である。法的な専門家を欠いたまま、同意のない入院決定を下すことは、このような人たちの基本的人権を侵害する。
4. 透明性の欠如 : 判事による司法審査の存在は、同意のない入院のプロセスの透明性を高めている。この制度が無ければ、その決定に明瞭さと責任を欠くものとなる。
5. 不平等 : 法的制御のない中での精神医療は、人種や性別による差別を引き起こす可能性があり、精神科病院でのケアに不平等が生じ、強制入院させられ易い人たちの存在も懸念される。
6. 外圧 : 外圧、政治や行政などに影響を受け易くなり精神医療制度は神経質なものとなる。
7. 入院必要性の評価 : 精神症状の複雑さは実際の入院の必要性を測りにくくしている。法的な審査は一つの補足的視点をもたらし、評価の独立性を保つ。
8. 解決の複雑化 : 人権侵害や不正に対する法的な権利擁護は限定的なものとなり、訴訟の解決や基本的人権擁護に問題を残すことになる。


判事による司法審査は、独立した法的審査を導入することで、これらの欠陥を補うものであり、この制度がなければ、病院における精神医療は正義と倫理の点において危険にさらされるであろう。

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