~~ 市民による地域精神保健 ~~ 

- 健康は権利 - (無断転載はお断りします) 中村佳世

IPS意図的なピアサポート まとめ

IPS 意図的なピアサポート(相互支援)1 


IPS意図的なピアサポートについて松田博幸さん(大阪公立大学)は次の2点を指摘します。
1. 単なる自己啓発のためのプログラムに留まらない、社会変革とか運動といった文脈からピアサポートが生まれた
2. 援助専門職者が、自らに内面化されている医学モデル的な感覚や考えから解放されるという視点が大切  



IPS 意図的なピアサポート(相互支援)1 (Sipp pair aidant au Quebec)
「メンタルヘルスのピアサポートが急増するにつれ、私たちの意図する社会の変革に注意深くしている必要があります。大事なのは、より効果的な医療サービスを開発することではなく、私たち自身の理解、会話、関係のすべてに影響を与える『対話』を築き上げることです。」
– IPS創設者、シェリーミード- 


地域市民精神保健では自立を重視するため、施設や医療に頼る割合をできるだけ少なくするという方針があります。
対話と互助による参加と自立、つまりピアサポート、自助グループ、エンパワメントなどが推奨されます。その意味でも、IPS意図的なピアサポートを知ることは大切な意味をもつと思われます。



【IPS 意図的なピアサポートとは?】


「相互支援3つの原則」


1   個人から関係へ : 

これまでの精神医療の臨床では、サービスを利用する個人のニーズと感情に焦点が当られていて、関係のダイナミクスに注意を払うことに費やされる時間はほとんどありませんでした。IPS意図的なピアサポートは、変わりうる関係を迎え入れ、それについて考える方法です。「問題」の想定から始めない点が、従来の相互援助とは異なります。個人の問題よりも関係に着目し、個人や関係のパターンを良く認識し新しい角度から見ることによって、今までとは違った方法で互いにサポートし合う試みです。


2   共に学ぶ : 

IPSでは、個人の問題解決にこだわるという問題を回避するために、お互いから学び合うことに時間をかけています。私たちは常に関係性に、つまり交渉の意味と双方のニーズに注意を払い、双方が互いに大切にできるような、どちらにとっても真に価値があると思える関係を築くよう努めています。特定の役割やスキルを優先する代わりに、二人とも貢献できる大切な何かを持っていると考えています。私たちの仮定や、意味を理解するために身についた解釈方法を吟味します。私たち一人ひとりが、どのような方法、理由で自分の経験を理解してきたのかを互いに聞き合い、その関係を築いた上で、各々の経験を見直し、再考し、そして行動するための新しい方法を生み出すことを共に学びます。 共有できる意味を共に創りあげられることが理想です。


3   怖れから解放され希望を発展させる : 

人は、恐れがあると状況をコントロールしたいと思う傾向があります。ですから、私たちは、恐怖により反応が刺激される仕方に注意を払います。 物事を管理またはシャットダウンしようとするのではなく、希望に重点をおいて不確実性を受け入れるようにします。ソリューションを強要する代わりに、じっくりとそこに留まり、新しい人間的な可能性が現われるの待ちます。結果としてより強く、より健康的なコミュニティを構築することを目標としています。 原則は居心地の改善にあります。


【従来のヒューマンサービスと異なる点】
• 関係は、一方的に1人が別の人を「支援」するのではなく、両当事者に学習と成長を促し、刺激するパートナーシップです。
• 私たちがやめるべきことや回避するべきことに焦点を当てるのではありません。私たちをますます生かし、私たちが望むものに向かって前進することを奨励しています。
• 問題の想定から始まりません。 IPSでは、私たち一人ひとりが自分の経験を理解するために学んだ方法に注意を払い、次に見て、考え、実行する新しい方法を築き上げます。
• トラウマを考慮した関係を促します。 「どうかしたの?」と尋ねる代わりに 「何が起こったのですか?」と尋ねることを学びます。
• 相互に責任のある関係とコミュニティの文脈の中で、私たちの人生を検証します。単に個人の変化にのみ責任を帰するという概念を超えたものです。


「意図的なピアサポートで扱うのは対話についてです。 私たちが対話を通じてどのように知識を得、どのように新しい『知識』を生み出すか、どのように人と人との繋がりを技術的に実践し始めるのか、それによって私たち自身と、人生で出会う人たちと、また、共通点もないと思えるような地球上の全ての人たちと、相互関係を築く方法。 私にとっては、それは正しいとも間違っているとも言えない実践です。常に流動的で 音楽の即興演奏によく似ています。 私たちはお互いにIPSを『プレイ』し合うことを通して、これまで以上に興味深く複雑な理解の仕方を生み出すことを前提としています。 私たちはそれを世界を適切に捉えておくためのツールと見なしています。私たちは恐れとして反応することが減り、より快適になります。 とは言え、別の答えがあると仮定しているのではなく、よりよい問い方を生み出すことを目的としています。」



【IPS意図的な相互支援とは】


エリック・マイセルが創始者シェリーミードに。(メンタルヘルスの将来についてのインタビューの一部)


EM:エリック・マイゼル
SM:シェリー・ミード 


EM: IPS意図的なピアサポート、その哲学と意図について教えてください。
SM: IPS意図的なピアサポートは、関係に着目して共同開発する体系です。
 哲学的には、構築的で全身的な社会的パラダイムから生まれます。意味は文脈の中で創造されてくるものだと思います。そして、脆弱であるとされている人たち双方の信頼関係を、前向きに発展させることができると信じています。


EM:従来の精神医療サービスに代わる他の選択肢についての考えを教えてください。
SM:私は良い代替案があると思います。ヒアリング、ソテリア、オープンダイアログ、自殺の代替案など。(Hearing Voices, Soteria, Open Dialogue, Alternatives au suicide)
 しかし、多くの場合代替医療は従来の方法で行われています。何か違ったことをしているけれど、実際には以前と同じ古いことをしていると思われるような、多くのオルタナティプがあると思います。。
 意図は素晴らしいのですが、人々は真に違いを生み出すためにどれだけのパラダイムシフトが必要かを本当に理解してはいません。仲間が薬物チェックをしたり、進捗状況のメモを書いたり、義務的な報告者になったりしているようなことが分かります。
 「結果」を違った目で見ることが本当に重要だと思います。例えば、私の代替プログラムが従来のプログラムと比べて、結果が同じであれば問題だと言えるでしょう。。
EM: あなた自身「慢性的な患者」から、メンタルヘルスの擁護者になった課程について教えてください。
SM:慢性的な精神病患者になったのには、秘かに進行していた気づきにくいプロセスがありました。   
 私はとても疲れていて無気力になっていました。病院では入院は必要なのよ、ここにいなければだめよ、あなたの為よ、と悟るよう説得のメッセージを受け取りました。診断システムに組み込まれるのは安心で魅力的でした。
 それから私に何か問題があれば、医療によって私が感じていたことをうまく説明してくれるでしょう。 つまり彼らはあなたに期待すべき事柄を教え、それに順応する方法を教えます。
 順応はメンタルヘルスの言葉の中で最も危険な言葉の一つです。順応は、あなたの固有の人生をではなく、一般常識の中で、何が正しいのか、何がうまくいっていると言えるのかという知識を語るのみです。
 ある日の午後のことです。私が出席していた医療ユニットで知り合った看護師が、私を彼女のオフィスに連れて行き「ねえ、シェリー。あなたは慢性の精神疾患者でいたいのですか? それともソーシャルワーカーになりたいのですか? 10分待つから決めてね。」(私はソーシャルワークの学校に出入りしていました)。それが私には選択肢があることを知った瞬間でした。それまでは、物事が私に起こっていると思って見境なく受入れていました。私はそれをコントロールできていませんでした。


EM: 精神障害の診断と治療についてですが、いわゆる向精神薬を使用して、子供、青年、成人の精神障害を治療するという、現在支配的な考え方についてどう思いますか?
SM: 私は支配的な考え方のほとんどが、破壊的でむしろ混乱を引き起こすものであると思います。人々が診断され、治療される比率は驚異的です。社会として、私たちは、つながり、コミュニティ、ケアなど、基本的に人間が必要とすることがらを、すべて化学的な薬物によって解決しようとしているかのようです。「問題」の場所を人の生物学的の問題と捉えているので、責任はもはや人間にはありません。ですから、変えようもありません。家族、コミュニティ、またはより広く、文化をどのように運営しているかを見るのではなく「この錠剤を服用する」だけです。
結局それは、本当に何も解決にはなりません。例えば、私がアルコールを飲んで気分がよくなる、それは私が生物学的にアルコールが不足していることを意味してはいません。これは、私の人生が容認したくないようなものになったことに気づくにはあまりにもショックである、ということを意味するのみです。


EM:あなたが愛する人が、感情的または精神的苦痛の中にいる時、あなたは彼らに、何をするか、どうあるべきか、何か試してみることを勧めますか?
SM: 私は彼らなりに繋がれる人を見つけることをお勧めします。彼らを直し修正しそうとしたり、より良くしようとしない人々。私でしたら、深く耳を傾け、難しい質問をし、その人のために何がうまくいくか、何がうまくいかないのかについて正直である人を探します。
私はまた、関係を示すために私の役割を果たしたいと思います。たとえ私があまり気分がよくなくて、私自身放っておいて欲しい時だとしてもです。これは、双方が最善を尽くし、力を分かち合い、相互性を保つ最も重要な時の一つなのです。



例) S ミードさんによる対話のモデルケース
https://www.youtube.com/watch?v=ZdygugOP9SU&t=1170s


(フランス語のサイトも貼っておきます。) 
http://fr.psy.co/shery-mead-sur-le-soutien-par-les-pairs-intentionnel.html?fbclid=IwAR3Xol2eSIxjUArUg2KdIMibBOs3sP0QKwMqU5HVBYf-LDAh3kFp4zLKJKI
日本語の冊子も販売されているようですが、手に入りにくいので、ここでは英語版でダウンロード可能なものを紹介します。
https://www.intentionalpeersupport.org/articles/
HEREというところをクリックすると冊子をダウンロードできます。
http://fr.psy.co/shery-mead-sur-le-soutien-par-les-pairs-intentionnel.html
出典:エリック・マイゼル

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